井上涼「YADOKARI」の不思議系アーティスト!NHKびじゅチューンで話題に

井上涼「YADOKARI」の不思議系アーティスト!NHKびじゅチューンで話題に

井上涼「YADOKARI」!作ったのは金沢美術工芸大学卒の不思議系アーティスト

井上涼の作品は、ポップな絵と、独特な歌詞、忘れられないメロディーとヘタウマな歌で、一度聞くと耳を離れないことで人気となり、今では子供から大人まで多くの人に愛されています。作詞・作曲・歌・アニメをひとりで手がける映像作家で、そのネタの選び方や描き方から、「不思議系アーティスト」とも呼ばれている井上涼。そんな彼の作品「YADOKARI」は、2012年の第24回CGアニメコンテストで佳作を受賞しました。

「YADOKARI」は、2分間のアニメーション。黄色を背景に、鮮やかな色の奇妙な姿をしたOL(?)が2人、ときに1人で、曲に合わせて踊ります。内容は、フルタイムで働いているOLが、家に帰りたがるというもの。2人の後ろでは、忍者など、歌詞に合わせた背景や登場人物たちが次々と現れては消えていきます。

タイトルがなぜ「YADOKARI」なのか?それは、「家ごと動けば帰りたいときすぐそこ」という歌に合わせて、2人のOLがやどかりのように殻を背負って踊るからです。この作品の内容に、視聴者からは「同じ気持ちです。火曜日に絶望しています」という共感の声があがったほか、「癒やされた」という感想も出ていました。

楽曲もアニメーションもすべて自分で手がけるという井上涼のスタイルは、金沢美術工芸大学の卒業制作時にすでに完成されていました。「人にお願いするのがそもそも苦手」という井上涼。すべてを自分で制作するスタイルの利点を、「ここでこういう音が欲しいって時、音楽に戻ってカーンって音を入れたり、その逆の時の画に戻ったり、行き来出来るところ」と語っています。制作は、まず歌詞を作るところから始めるそうです。何を描きたいか目的を決めて、逆算して作るとのこと。

そして伴奏をつけ、アニメを作るという手順。歌は1回作ってから、一度寝て起きて聞いて、また作るという方法をとっていますが、これは、頭がフレッシュな状態で作りたいからです。曲作りについては、「言葉にはもともと音程があるから」そのまま歌にしていると語る井上涼、曲の構成に関する理解は、彼が高校時代に吹奏楽部だったことが活きているそうです。

「『なぜだ』と思うようなものがすごく好き」という井上涼。彼が作る作品のユニークさは、井上涼自身の物事を見つめる視点が、私たちよりずっと自由であることが要因なのではないでしょうか。次は、その視点が如実に現れているNHK番組「びじゅチューン!」の制作について見ていきましょう。

井上涼がEテレ「びじゅチューン!」で美術教育番組制作へ

井上涼が、NHKのEテレ「テクネ 映像の教室」という番組でつくった「小人ピザ」という作品がきっかけとなり、NHKの美術教育番組制作チームから声がかかりました。井上涼は、父が美術教師、母もピアノの先生だったということで、もともと美術や音楽には幼いころから親しんでいたようです。しかし、美術教育となると話は別。芸術家たちのプロフィールや作品解釈といった小難しいことを教えることに、不安を抱いていたと語っています。

井上涼が制作に加わることになったのは、Eテレ「びじゅチューン!」でした。世界の有名な美術作品を、1分30秒のアニメーションと歌で紹介する番組です。作詞・作曲・歌・アニメはもちろんすべて井上涼が制作しています。
よくある美術教育のやり方には、やや苦手意識をもつ井上涼。そこで、美術作品から受けるインスピレーションを大切にして制作することに。番組で取り上げられる作品は、番組制作に関わる人たちで話し合って決めているそうですが、どういった観点からどう作るかは、井上涼が中心となって決めているようです。

「作品を見たときの最初の思いつきの上澄みみたいなものをキャッチして、それで1本作るみたいな。そうしないと、みんなが美術を上に見てしまう気がして」という考えのもと、もったいぶった小難しい説明から入る鑑賞ではなく、作品を見てインスピレーションを語るというスタイルをとっているのですね。それならば、好き勝手言っていればいいのかというと、そういうわけでもありません。

歌詞は、対象となる美術作品がもつエッセンスにきちんと基づいています。たとえば「保健室に太陽の塔」という、岡村太郎の「太陽の塔」を紹介する回では、歌詞に「何を選んでもそれは進化」とあります。これは、「岡本太郎さんが言ってもおかしくない、井上涼が考えた言葉」です。

井上涼の個展やLINEスタンプが気になる!プロフィールや出身は?

井上涼の個展やLINEスタンプが気になる!びじゅチューン!以外で井上涼作品を見られる場所はここ!

井上涼は、毎年個展を開催しています。2015年は8月19日から31日、秋葉原の3331 Arts Chiyodaで「マチルダ先輩と忍者合唱団」という個展を、2016年は7月10日から9月4日に、岡山県倉敷市にある大原美術館で「井上涼のとらとらまごまご展」という個展を開催しました。

「マチルダ先輩と忍者合唱団」では、インスタレーションとプロジェクションを融合した空間づくりで、鑑賞者を井上涼の世界に引き込みました。2016年の「井上涼のとらとらまごまご展」では、足かけ3年におよぶ取材を基に、日本一古いといわれる美術館を創設した大原孫三郎と児島虎次郎の友情を描いた新作動画を発表しています。

また、期間限定でダウンロードできる企画として、ぷっちょとのコラボ作品となる井上涼のLINEスタンプも。ぷっちょののっぺりとした顔(からだ?)に、井上涼の登場人物にありがちな髪の毛が生えていたり、「急ぎます」という文字とともに必死に自転車をこぐぷっちょがいたりと、ユニークで愛らしいスタンプの数々。今後このようなスタンプが発売されるかは未定ですが、「びじゅチューン!」の視聴者から番組の公式スタンプ発売のリクエストも出ているようですから、もしかしたら将来実現するかもしれませんね。

個展やLINEスタンプ以外で、井上涼の作品が手に取れるものとしては、他に「びじゅチューン!ガチャ」や、DVD BOOK、CDがあります。いずれも「びじゅチューン!」で登場したアニメやその人物たちが、あらためてフィギュアやDVD、CDになったもの。番組のファンにとっては、たまりませんね。特にDVD BOOKでは、アニメ作品を見られるだけでなく、その解説、カラオケ、全作品の構想スケッチや歌詞、小ネタ、制作のヒミツ、題材となった美術作品の解説も載っているとのこと。

さらに番組では公開していない撮り下ろし特典映像も収録されており、作品づくりの裏側もしっかり楽しめる構成となっています。まさにファン必携!今年の井上涼の個展を逃してしまった方は、ぜひDVD BOOKで井上涼の世界に浸ってみましょう。

井上涼のプロフィール・出身は?視覚デザイン専攻から広告業界、そしてアニメ制作へ!

井上涼は、1983年6月10日に兵庫県小野市で生まれました。芸術に親しむ家庭で育ち、「電気で動くかかしの彫刻」といった変わった彫刻を作る父親と、ピアノの先生をしている母親のもとで、美術や音楽が当たり前にあるような子供時代を過ごします。絵を描くのも子供の頃から好きだったそうです。

その後、金沢美術工芸大学デザイン学科で視覚デザインを専攻した井上涼は、卒業制作として、「赤ずきんと健康」というアニメーションを制作。それが、BACA-JA佳作を受賞しました。「赤ずきんと健康」は、YouTubeとニコニコ動画で280万再生されるほどの話題作に。2005年には自身がゲイであることを、作品を通してカミングアウトしています。

そして2013年、NHKのEテレ「びじゅチューン!」が始まりました。2013年に「びじゅチューン!」第3回で放送された「雷神風神図屏風デート」という動画では、雷神と風神がカップルでデートしています。その様子を「同性愛」と認識した視聴者も多いようで、そう見える要素を何のためらいもなくアニメーションとして盛り込むのも、井上涼の感性ゆえ。

ただ井上涼自身は、この作品について、特に性別を意識してつくったものではないとインタビューに答えています。井上涼は、翌2014年春まで、広告代理店でアートディレクターを続けていますが、「広告を作る感覚が合わないと感じていた」「(作品を作るのは)違和感をなくすための手段だった」と語っているように、その後、広告代理店を辞めてアーティスト活動に専念するようになりました。

井上涼が社会人になって2年目あたりで開催した個展に来てくれたお客さんに力をもらい、将来の可能性を感じたのも、フリーに転身する大きなきっかけとなったようです。

「不思議系アーティスト」井上涼の作品は毎週びじゅチューン!で放送中!

井上涼が作詞・作曲・歌・アニメを制作し、出演もするNHK Eテレ「びじゅチューン!」。世界の美術作品を、オリジナルの歌とユニークなアニメで紹介します。そのポップな絵と色づかい、一般人では思いつかないような言葉の組み合わせで歌われる奇想天外な詞、そして忘れられないメロディーがヘビロテされるのは、日曜日午後5時55分から。井上涼が、美術作品から受け取ったインスピレーション、「上澄み」を大切にしながら作るという歌やアニメには、子供も大人も「この作品を見てみたい」という気持ちになります。

さらに、井上涼が語る美術作品の印象を聞いていると、最初に聞いた歌の奇想天外さが、2回目に聞くときにはなぜか理解でき、なじみのあるものに変わっているという不思議な体験もできる番組です。
「不思議系アーティスト」井上涼の不思議さは、常識という名の下に端っこへ追いやってしまっている第一印象や連想を、惜しまずすくい取るところにあるのかもしれません。

決して自分勝手ではなく、作品にのっとった解釈でありながらも、自分が受けたイメージを大切にする井上涼の姿は、「美術作品を見る」ということを、もっと自由で身近なものにしてくれます。井上涼は、番組でムンクの「叫び」を紹介する際に、通常は悲壮的な「叫び」を連想するのに対して、自分は何か解放されるような「叫び」を感じたと語りました。

私たちは、名画の解釈を誤らないようにと、事前に解説書を読んだり、調べたりして、「『叫び』は、愛と死やそれらから生じる不安をテーマとした作品群の1つなのだから、恐怖の感情なのだ」と、自分の目で作品をきちんと見る前に、印象を決めてしまうことも少なくありません。

しかし井上涼のアニメーションを見ていると、「もっと自分の目で作品を見て楽しんで!」と言われているような気持ちになってきます。井上涼のそうした既成概念にとらわれない姿勢に背中を押されて、私たちの足が再び美術館へ向かう日が、近い将来きっと来るのではないでしょうか。

自分の目で世界の美術作品を楽しむEテレ「びじゅチューン!」は、毎週日曜午後5時55分の他、木曜日夜11時50分、土曜日昼12時25分にも再放送されます。井上涼の美術作品を楽しんでください!

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