中村中「友達の詩」の歌詞に込められた思い!紅白出場秘話

中村中「友達の詩」の歌詞に込められた思い!性同一性障害カミングアウトまで

中村中「友達の詩」の歌詞に込められた思い!叶わぬ恋と秘めた性の葛藤

中村中は、戸籍上は男性である女性シンガーです。そんな中村中が、2007年の紅白歌合戦で披露した代表曲「友達の詩」の歌詞には、自分自身のアイデンティティを確かめたいという思いが込められていました。中村中のアイデンティティとは、メジャーデビュー後の2006年9月に、公式サイトでカミングアウトした「性同一性障害」。

中村中が「友達の詩」を書いた15歳の頃には、まだ「性同一性障害」という言葉も確立されておらず、「私は人と違う気がする。何者なんだろう」「愛することはいけないことなのだろうか」という葛藤に苛まれる毎日でした。違和感を覚えながらも、男子として生きていた中村中は、自分自身のアイデンティティを打ち明けられず、好きになった男の子に告白することもできない苛立ちと寂しさで押しつぶされそうだったそうです。そんな中学生活の卒業を前にして、叶わぬ恋の切なさを絞り出すように綴ったのが「友達の詩」だったのです。

中村中「何で自分が?」性の違和感は幼稚園から!性同一性障害カミングアウトまで

中村中は幼稚園の頃には、「自分は女の子に生まれるべきだったのでは」と疑問を感じていたと語っています。小学校時代、バレンタインのチョコレートを女子から貰った時には「何で私が女の子から?」と違和感を覚え、10代の頃は、好きな音楽に熱中することで自分の性へ目を向けないようにしていたそうです。そんな中村中に変声期が訪れます。

歌うことに苦痛を感じ、ピアノやドラムなどの楽器に没頭するようになりました。しかしデビュー前には、声や性も含めて「これが自分らしさだ」と確信を持てるようになった中村中。「同じ悩みを抱える人たちのためにも性同一性障害を認知してもらいたい」という思いから、2006年の「友達の詩」のヒットと前後するように、カミングアウトを決めます。

中村中の紅白出場秘話!中島みゆき主催「夜会」や舞台「マーキュリー・ファー」で好演!

中村中の紅白出場秘話!中居正広が「友達の詩」名ステージを守った

中村中は2007年、「友達の詩」を引っ提げて、戸籍上は男性でありながら紅組で、紅白出場を果たしました。出場枠については、初めから「紅組」で打診があったそうです。その時の演出は、性同一性障害であることを紹介したVTRを流し、中村中の母親からの手紙が読み上げられた後、「友達の詩」の演奏が始まりました。

実は中村中の出番時、すでに進行に2分半の遅れが生じていたそうです。この時、スタッフからVTRと手紙のくだりをカットする指示が出ていたのですが、司会の中居正広はこれを毅然と拒否。こうして、紅白歌合戦の長い歴史の中でVTRからの流れを含め、「名場面」にカウントされる中村中のステージが完成したのです。中村中にとって、「中居さんの判断、NHKの最終的なOKがなければ、同じ悩みを持つ人を悲しませたかもしれない」という安堵と共に、彼らの性同一性障害への理解を実感した温かい瞬間でもありました。

中村中、中島みゆき主催「夜会」や舞台「マーキュリー・ファー」の芸術的感覚がスゴイ!

中村中は2006年の歌手デビューと同時に、女優として、ドラマや舞台へも活躍の場を広げていきました。「演技も、歌うことと同様に捉えている」と言う中村中の類まれな芸術的感覚の高さは、2014年に出演した中島みゆき主催「夜会」の演目「橋の下のアルカディア」でその真価を発揮されることになります。

「夜会」とは、中島みゆきが1989年から行っている実験的歌劇。ミュージカルでもなければ演劇でもない、言葉の実験劇場と言われる「夜会」。中村中は人間ではない役を、ファンタジー感とコメディエンヌ感をもって演じきりました。2時間余りの公演中に、46曲を腹の底から歌い上げるというハードルの高さは想像にかたくありません。

前衛芸術のような世界感を表現する感覚もさることながら、中村中は、挑発的で刺激的なセリフや演出で、人々をトランス状態に陥らせた2015年の舞台「マーキュリー・ファー」で演じたローラ役も評判でした。中村中の表現力は、音楽・演技に十分に発揮されました。

中村中「友達の詩」から9年、最新アルバムで伝えたい思い

中村中の代表曲「友達の詩」のサビの冒頭に「手を繋ぐくらいでいい、並んで歩くくらいでいい」とあります。もし、中村中が「性同一性障害」をカミングアウトしなければ、この歌詞に込められている、15歳の恋心の域を超えた悲痛な叫びを、誰が想像できたでしょう。彼女の登場は、マジョリティとされる人々が、マイノリティである人々の苦悩に目を向けるきっかけにもなったのです。

いつの世も、歌にはメッセージが込められています。それに人々は心を動かされ、考えさせられてきました。中でも恋愛ソングは、共感しやすいものです。しかし青春時代、恋心押し殺してきた中村中の歌には、単なる恋愛ソングではなくリアルな生命の叫びを感じます。

2015年11月に発売された最新アルバム「去年も、今年も、来年も」では、「友達の詩」のように”うまくいかない恋愛”をテーマにした8曲が収録されています。長い苦悩の生活を乗り越え、カミングアウトしてから約9年。中村中は多くの経験を重ねながら、何度も立ち上がり、成長してきました。そんな中村中だからこそ、苦しみや悲しみを抱えている人を、「恋愛」というテーマを通し励ますことができるのです。

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