上橋菜穂子「守り人シリーズ」が大人に愛される理由!読む順番は?
上橋菜穂子「守り人シリーズ」が大人に愛される理由!子供だましでない精緻な世界観
上橋菜穂子による「守り人シリーズ」は、百戦錬磨の30歳女性バルサが主人公という異色の児童文学。通常、主人公は10代くらいまでが多い中、30歳という年齢設定は、児童たちの母親くらいの年齢。担当の編集者も、上橋菜穂子の構想に当初は難色を示したとか。
しかし、上橋菜穂子が考える「若さの名残を残してはいるけれど、もう若い娘ではない、世間の裏の裏まで見てきた、経験豊かな大人の女」という人物像に説得され、「守り人シリーズ」はスタートしました。新聞の書評欄でも、「大人にこそ読んでもらいたい」と紹介された「守り人シリーズ」。大人たちも、すっかりその魅力にはまり、「あっという間に読み終えてしまった」と口々に語ります。
「守り人シリーズ」の重厚で細部まで練り込まれた世界観と、人間味のある個性豊かな登場人物たちの魅力がそうさせるのでしょう。人間と精霊の世界とが交錯する物語の舞台には、多数の王国が登場します。国によって言語も宗教も異なるといったように、「守り人シリーズ」の世界には、上橋菜穂子がこれまで見聞きしてきた文化人類学的見地も多分に盛り込まれています。
上橋菜穂子「守り人シリーズ」の読む順番は?基本は出版順でOK!
上橋菜穂子の「守り人シリーズ」は、本編の全10巻と短編集などを合わせて合計13冊が出版されています。30歳の女用心棒であるバルサが主人公となっているものは「~の守り人」、皇子チャグムが主人公となっているものは「~の旅人」というタイトルです。「守り人」と「旅人」2つの流れがそれぞれに進められ、「天と地の守り人」で1つになるという仕掛けも、読者の興奮をあおりました。
「守り人シリーズ」の本編となる全10巻ですが、実は、物語の出来事が、きっちり時系列で語られているわけではありません。出版された順番と年代順とではやや前後する部分があります。それが、「虚空の旅人」と「神の守り人」で語られている部分。もし物語を時系列にそって読みたいのであれば、「神の守り人」を読んだ後で「虚空の旅人」を読むのをおススメします。
逆に、リアルタイムで出版を追いかけていた読者と同じ興奮を味わいたいのであれば、出版順にそって「虚空の旅人」を読んでから「神の守り人」へ。「精霊の守り人」から始まって「闇の守り人」「夢の守り人」、そして「虚空の旅人」と「神の守り人」、その後に「蒼路の旅人」を経て、本編のクライマックスとなる「天と地の守り人」がスタンダードな流れです。
上橋菜穂子おすすめ著書「獣の奏者」あらすじネタバレ!出身校や経歴は?
上橋菜穂子おすすめ著書「獣の奏者」あらすじネタバレ!メインストーリーは闘蛇編と王獣編
上橋菜穂子の人気作品は「守り人シリーズ」だけではありません。獣と人間の関係を描いた物語に「獣の奏者」もかなりの作品。舞台は、リョザ神王国。主人公はエリンという名の少女です。「獣の奏者」は、全4巻と外伝が出版されており、上橋菜穂子が当初本編として描いたのは、前半の2巻である「闘蛇編」と「王獣編」です。
「獣の奏者 I 闘蛇編」では、エリンが、母親と共に、闘蛇衆の村で暮らすところから始まります。エリンの母親は「獣ノ医術師」という職業で、その腕を見込まれて、「牙」の世話をしていました。ところが、村で飼っている「牙」が全て突然死してしまうという事件が起こります。
「牙」の世話役であったエリンの母親は責任を負い、闘蛇に食い殺されるという刑に処せられました。母を失ったエリンは天涯孤独の身となり、やがて蜂飼いのジョウンに拾われます。エリンは、ジョウンやその息子と暮らす中、山奥で野生の王獣に出会い、その美しさに心を奪われたエリンは、母親と同じ「獣ノ医術師」を志します。そこで、ジョウンの旧友でもあるエサルが教導師長を務めるカザルム王獣保護場の学舎へ入舎します。
「獣の奏者 II 王獣編」では、エリンが、カザルム王獣保護場で保護された王獣の子供に出会い、世話を任されます。王獣の子供はリランと名付けられましたが、なかなかエリンに心を開きません。そこでエリンは、かつて山奥で見た野生の王獣の姿からヒントを得て、太陽光の入り方を工夫し、王獣の母親の声に近い音を奏でられる竪琴を製作。その音を頼りにエリンと心を通わせ、リランは元気を取り戻していきます。
しかし、本来、人間と王獣は心を通わせられないもの、通わせてはいけないものとされてきました。初めて空を飛んだリランとそれに乗っていたエリンの前に、エリンの母親の一族である霧の民が現れ、警告を発します。エリンが知らずに身につけてしまった「操者ノ技」は、かつて栄えた大国を血の海に導いた元凶でした…。
「獣の奏者 III 探求編」および「獣の奏者 IV 完結編」に綴られているのは、王獣編の後に読者から「もっと読みたい!」と請われて書かれた物語。探求編の舞台は、王獣編のクライマックスである「降臨の野」の決戦から11年後で、闘蛇編でなぜ「牙」が突然大量死したのか、その謎に迫っています。
上橋菜穂子の出身校や経歴は?幼い頃から物語に親しみ立教大学で文化人類学専攻
上橋菜穂子は、物語の舞台となる世界と人物たちを、なぜこれほど精緻に描き出せるのでしょうか。その秘密は、彼女の経歴にありそうです。上橋菜穂子は、1962年7月15日に東京都で生まれました。中学・高校は香蘭女学校中学校・高等学校で、中高一貫教育を受けています。中学生になり、海外のファンタジーを読むようになります。
高校時代は、トールキンの「指輪物語」に夢中になったそうです。高校2年生の文化祭では、自ら原作・脚本・出演を務めた西欧中世悲劇「双子星座」を自主上演し、旺文社の文芸コンクールに出した「天の槍」は佳作を受賞。この時点で、上橋菜穂子はすでに作家を志していたと言えそうです。
そんな上橋菜穂子の物語世界に厚みを加えたのが、大学での研究でした。高校を卒業した上橋菜穂子は、立教大学文学部史学科へと進学し、文化人類学を専攻。アフリカの神話や、アボリジニの歴史文化などを学びました。大学卒業後は、そのまま大学院へ進学。1993年に、立教大学大学院博士課程を単位取得退学した上橋菜穂子は、2007年に、アボリジニのアイデンティティに関する論文で文学博士を取得しました。
その後は、女子栄養大学助手、川村学園女子大学教授などを経て、2012年10月から同大学の特任教授を務めています。研究者というバックグラウンドを最大限に活かした物語は、世界中の人を魅了し、2014年には、国際アンデルセン賞作家賞も受賞しました。
上橋菜穂子の「守り人シリーズ」がドラマ化!NHK大河ファンタジーと特別企画展で世界観を堪能
上橋菜穂子の「守り人シリーズ」は、NHK大河ファンタジーとしてドラマ化されています。2017年1月21日からは「精霊の守り人 II 悲しき破壊神」がスタート。人と精霊が共生する世界に生きる主人公バルサを、綾瀬はるかが演じています。前作「精霊の守り人」では、皇子チャグム(板垣瑞生)と精霊の卵を守ったバルサ(綾瀬はるか)。
今作では、チャグムは新ヨゴ国の皇太子となり、バルサは育ての親の敵であるカンバル国王暗殺を図った罪で逃亡生活を送っていました。その中で、バルサは、アスラ(鈴木梨央)という不思議な力を持った少女に出会います。友人から「関わるべきではない」と忠告されるも、結局関わってしまうバルサ。そこへ、アスラをさらいに、呪術師シハナ(真木よう子)が現れ……。バルサとシハナの死闘の行方、アスラに秘められた力など、気になる展開が続いています。
ドラマ化にあわせて、全国巡回展も企画され、かごしま近代文化館でも、特別企画展「上橋菜穂子と<精霊の守り人>展」が開催されました。上橋菜穂子の代表作である「守り人シリーズ」を中心に、彼女の魅力的な物語世界を紹介する本展。シリーズの関連資料、文化人類学の研究資料、撮り下ろしのインタビュー映像などもあり、ファン垂涎の内容になっています。さらに、「守り人シリーズ」で描かれる精霊の世界「ナユグ」の映像インスタレーションも展示されました。
児童文学として書かれ、大人をも魅了する物語に「ハリー・ポッター」シリーズがありますが、「守り人シリーズ」もしかり。ドキドキはらはらする展開、そこに現れる人物たちの思い、生き様、そして彼らの暮らす世界の有様をじっくり味わってみてはいかがでしょうか。