伊武雅刀の「ジェットストリーム」「スネークマンショー」は色あせない!
伊武雅刀、桑原茂平、小林克也の「スネークマンショー」は、ラジオ史に残る問題作だった!
伊武雅刀といえば、今や俳優というイメージを持つ人のほうが多いかもしれません。しかし、その声の良さが買われて、若いころの伊武雅刀は、ラジオ番組のパーソナリティなど声の仕事も多くこなしていました。文化が爛熟してくると、趣向をそのまま楽しむのではなく、新たな仕掛けやひねりを加えて仲間内で楽しむ、数寄者あるいは好事家というような人々が出てきます。
世は70年代後半、アメリカの若者文化や、さまざまなジャンルの音楽が日本に定着し、若者たちは、それを自らのものとして楽しむことができるようになっていました。ちょうどその頃、放送業界の裏方であった3人の男たちが作ったラジオ番組が、マニアの間で話題になります。音楽プロデューサーでありマルチクリエーターの桑原茂平、独自のDJスタイルを確立したナレーターの小林克也、そして、俳優を目指しながらも、都会的でインテリジェンスに溢れた声がひっぱりだこであった伊武雅刀による「スネークマンショー」です。
「スネークマンショー」が、まだ漫才ブームが起こる前のラジオ大阪で制作されたことも放送史における1つの事件ですが、アメリカの伝説のDJ、ウルフマン・ジャックをもじった、小林克也扮するスネークマンのたたみかけるようなDJと、通好みの選曲。そして何よりも、クリアな標準語で展開する、知的かつシュールなコントは、関西の若者にとって、強烈なカルチャーショックでした。
番組はすぐさま番組販売され、全国の若者にも次々と衝撃を与えます。スネークマンショーは、その反権力的な内容や、3人の強烈な個性のぶつかり合いから、1980年に番組は終了。しかし、「スネークマンショー」の影響は、その後の小劇場ブームや、竹中直人やいとうせいこうなどの系譜へとつながっていきます。
伊武雅刀が、城達矢のテイストを復活させた「JET STREAM」
伊武雅刀は、1949年生まれで、現在66歳。「スネークマンショー」で人気を博した当時は20代後半で、まだ髪もありました。そんな伊武雅刀の顔が知られるようになったのは、それから10年ぐらいを経て、俳優として本格的にテレビ進出してからでしょう。
また、伊武雅刀は、2002年から2009年にかけての7年間、深夜のFM ラジオ「JET STREAM」で、初代の声優・城達矢のテイストを復活させ、パーソナリティを務めています。実は、かつて「スネークマンショー」の中には、「JET STREA」のパロディ「JET STRIP」コーナーがありました。
その中で、城達矢のパロディである「欲情達矢」を演じていたのは伊武雅刀。数年後に、まさか自分が本家本元「JET STREAM」の機長になるとは……「欲情達矢」役の伊武雅刀も思っていなかったに違いありません。
伊武雅刀が声優を務めた「デスラー総統」の魅力!名優を襲った病気とは?
伊武雅刀は、「宇宙戦艦ヤマト」デスラー総統の声優だった!
伊武雅刀が声優として注目を浴びたのは、若干25歳の時。アニメ「宇宙戦艦ヤマト」のデスラー総統役でした。後のインタビューで、伊武雅刀は、オーディションでは、準主役ともいえる島大介役を受けたのに「声が暗い」と落とされ、デスラー役に選ばれたと語っています。
また、島大介役ができなかったこともあって、デスラー総統を少し投げやりな口調で演じたことが、逆にデスラー総統のニヒルなイメージとマッチしたようで、スタッフから高評価を得たと明かしています。いずれにせよ、デスラー総統という魅力的なヴィラン(悪役)のイメージを確立させたのが、伊武雅刀の声であったことはまちがいありません。
後に「宇宙戦艦ヤマト」の新たなアニメが制作されたとき、人気声優の山寺宏一が、デスラー総統役に指名されましたが、あまりに伊武雅刀のイメージが強すぎて、デスラー総統役を引き継ぐことを躊躇したそうです。
伊武雅刀は圧倒的に刑事役が多い?病気に襲われている?
伊武雅刀は、俳優として頭角を現してからは、そのギョロ目のいかつい顔、また近年はスキンヘッドで、コワモテの刑事役などが圧倒的に多いですが、スネークマンショーで培ったコメディセンスも相変わらず抜群です。伊武雅刀は、俳優としては、今が一番充実している時期でしょう。伊武雅刀病気説などがネットに上がったこともあったようですが、それも有名になった証といえます。
伊武雅刀は、コメディからシリアスまでこなす名わき役
伊武雅刀は、昨年だけでも、レギュラードラマ4本、単発ドラマ数本に出演しています。レギュラードラマは、NHK木曜時代劇「かぶき者慶次」、TBS「ホテルコンシェルジュ」と、テレビ東京の「釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助」、日本テレビ「ドS刑事」でした。
伊武雅刀の役柄は、善人にしろ悪役にしろ、知的レベルが高い役が多く、そこに陰影がつきます。「かぶき者慶次」では、隠居した老武士慶次に敵対する、寺の和尚に成りすました忍びの頭領役で、敵でありながら慶次の生き様にひかれていく、屈折した心情を見事に演じていました。
「ホテルコンシェルジュ」は、かつてのドラマ「ホテル」のような群像劇。若手俳優が多いキャスティングの中で、怜悧なホテルの社長役として、ドラマの重石となっていたのが伊武雅刀です。一方、「釣りバカ日記」でも、営業部長役でドラマの重石を担っていたのは同様ですが、少々役不足のようにも見受けられました。
「ドS刑事」は、振り切ったコメディでしたが、逆に、叩き上げで苦労人の刑事役を絶妙にこなした伊武雅刀。今までにはなかった魅力を発揮しました。伊武雅刀は、怜悧な悪役がピッタリですが、同時に、どこかスマートすぎるようにも思えます。どうせなら、アンソニー・ホプキンスが演じた「羊たちの沈黙」のドクター・ハンニバルのように、狂気と天才の間をさまよう鬼気迫るキャラクターに挑戦してほしいものです。