尾上菊五郎を人間国宝まで導いた妻・富司純子の功績!娘、息子は?
富司純子は完璧な梨園の妻として夫を支え、尾上菊五郎は人間国宝に
尾上菊五郎と富司純子の出会いは、今を去ること、40年以上前の1972年。歌舞伎界の御曹司、音羽屋の四代目尾上菊之助(当時)と、東映の任侠映画で圧倒的人気を誇っていた女優の藤純子(今の富司純子)が、NHKの大河ドラマ「源義経」で、義経、静御前役として共演します。富司純子は1945年生まれで、当時27歳。菊之助は30歳でした。尾上菊之助と富司純子は恋に落ち、結婚します。しかし、このニュースは女性誌だけでなく、社会に一大センセーションを巻き起こしました。
富司純子の父は、任侠映画の生みの親と呼ばれた俊藤浩滋。ゼネラルマネージャーの地位にありましたが、その出自は、本物のやくざともいわれていたため、やくざの娘が梨園の妻になってよいのかと、当時の芸能界は大いに物議を醸しました。しかし富司純子は、若くして、映画界の大女優になっただけでなく、父親ゆずりなのか、腹も据わっていたようです。
結婚後は、梨園の妻をしっかりと務め、夫である尾上菊之助は、七代目尾上菊五郎を襲名。2003年には人間国宝に認定されています。これらの功績は、梨園の妻である富司純子の支えなしに成し遂げられません。また子育てにおいても、娘の寺島しのぶは、今や大女優に育ち、息子は父を継いで、五代目尾上菊之助を襲名しています。
富司純子は、元祖お騒がせ梨園の妻だった
世は戦国の安土桃山時代末期、派手な衣装や、一風変わった異形を好んだり、常軌を逸した行動を讃える、「傾く」という風俗が世にはやり、その奇抜な風俗を取り入れた踊りや芝居、まるで70年代のアングラ芝居のようなものが、今の歌舞伎のルーツと言われています。
それが今では、日本固有の伝統芸能となり、歌舞伎界は、一子相伝、伝統と格式を重んじる独自の成熟した芸能社会を形成し、多くの人々は、一般人の入ることができないセレブ社会のようにとらえているようです。また、梨園の妻、という言葉も一般化しています。梨園とは、中国の宮廷における音楽家養成所のことで、日本においては、歌舞伎界を指す言葉となりました。
その梨園に嫁に入った女性たちのことを、梨園の妻と呼び、女性誌などでは常に、好奇と羨望の目で、彼女たちの特集記事を組んでいます。今でこそ、尾上菊五郎の妻、寺島しのぶや五代目尾上菊之助の母として確固たる地位を築いている富司純子ですが、スキャンダル扱いだった結婚当初を思えば、元祖お騒がせ梨園の妻だったと言えないこともありません。
尾上菊五郎家の家系図は?中村吉右衛門と親戚?!
尾上菊五郎の音羽屋がつなぐ、中村吉右衛門にも繋がる華麗な歌舞伎名門の系譜
尾上菊五郎の音羽屋は、歌舞伎一門の中でも名門中の名門です。しかし、六代目尾上菊五郎に子はなく、七代目尾上菊五郎の父、六代目尾上梅幸が、養子に入り精進したことから、六代目尾上菊五郎、七代目尾上梅幸、次いで七代目尾上菊五郎と続くことに。結果、親子孫三代に渡って人間国宝に認定されることとなりました。
また、六代目尾上菊五郎の娘と、十七代目中村勘三郎が結婚し、十八代目中村勘三郎が生まれ、当代の中村勘九郎、七之助へとその系譜は続きます。十七代目中村勘三郎は、初代中村吉衛門と兄弟ですから、尾上菊五郎と、九代目中村幸四郎や二代目中村吉衛門ともつながっているということになりますね。
尾上菊五郎と松本幸四郎は、遠縁の同い年で長年のライバル
尾上菊五郎と松本(中村)幸四郎は同い年で、若い頃からライバル関係にありました。また往年の名優・萬屋錦之介や、中村獅童などにもつながる音羽屋の系譜は、高麗屋、中村屋、萬屋など、人気一門を繋いでいます。尾上菊五郎率いる音羽屋は、昔から武士の物語でなく、江戸時代実際に起こった事件などを題材にした世話物が得意。
その美しさから、女を騙る盗賊、弁天小僧菊之助の物語「弁天娘女男白浪」は、「知らざあ言って聞かせやしょう」という名台詞とともに、七代目尾上菊五郎の当たり役として有名です。また、七代目尾上菊五郎は、通常の歌舞伎公演とは別に、自ら「尾上菊五郎劇団」を主宰して、江戸歌舞伎の世話物を今日に伝えることをライフワークとして、地道な公演活動も行っています。
富司純子は梨園の妻として、七代目尾上菊五郎の舞台降板に獅子奮迅
尾上菊五郎は、御年73歳。ここ数年、十八代目中村勘三郎、十二代目市川團十郎、十代目坂東三津五郎と、次代を担う名だたる歌舞伎役者が急逝し、歌舞伎界は大きな危機に見舞われました。しかし、ピンチはチャンスと言わんばかりに、最近では、重鎮、若手一丸となって芝居に精進し、歌舞伎界にも活気が戻ってきています。
ところが、今度は尾上菊五郎です。今年に入って国立劇場、歌舞伎座と休みなく出演し、疲れが出たのか、東京・歌舞伎座での3月公演「五代目中村雀右衛門襲名披露」を胃潰瘍のため休演することになりました。七代目尾上菊五郎が出演予定だった「鎌倉三代記」の三浦之助義村役は、息子のである尾上菊之助が代役を務めます。
梨園の妻である富司純子は、こういった時、夫の看病はもちろん、お見舞いに対するお礼や、贔屓筋に対するお詫びなど、当代の尾上菊五郎に代わり、しきたりにそって、さまざまな役目を果たさなければなりません。得てして最近では、そのゆるぎない伝統ときらびやかな歌舞伎の世界を、マスコミは、日本に数少ないセレブ社会のように伝えがちです。
しかし、この現代社会の中で、一子相伝で伝統を伝えることの難しさ、経済的負担の大きさは、並大抵ではないようです。今も美しい老貴婦人役が似合う富司純子ですが、やはり、かつての緋牡丹お竜のように、梨園の妻には、男まさりのきっぷのよさと度胸が必要なのかもしれません。