チェット・ベイカーの名曲、名盤は?3回もの結婚を自ら破綻させていた
チェット・ベイカーの名曲はジャズメンに人気の「My Funny Valentine」!名盤「Chet Baker Sings」にも収録
ウエストコースト・ジャズを代表するジャズメンであるチェット・ベイカーは、中性的な歌声と、確かなトランペット技術で今もなお愛されるジャズ歌手&トランペット奏者です。数ある名曲の中でも、特にジャズファンの心を捉えて離さないのは「My Funny Valentine」でしょう。
もともとは、1937年にミュージカル「ベイブス・イン・アームス」で発表されたショーナンバーでした。これまでにも数多くの有名ジャズメンにカバーされてきた名曲中の名曲ですが、チェット・ベイカーのヴァージョンを決定版とする声が多くなっています。
その「My Funny Valentine」も収録されているのが、1956年に発表され、全曲で歌声を披露しているチェット・ベイカーの名盤「Sings」です。本作では、チェット・ベイカー特有の天性の歌声を堪能することができます。また、チェット・ベイカー後期の名盤と言えば「枯葉」。トランペットのアドリブやボーカルが冴えわたる収録曲の数々は、もはや名人芸の域に達していると賞賛されています。
チェット・ベイカーは3回もの結婚を自ら破綻
波乱万丈な人生を送ったジャズメンとしても知られているチェット・ベイカーは、生涯で3回結婚しました。中でも、3回目の結婚をした時の妻キャロル・ベイカーとの間には、3人の子供たちをもうけています。ミッシー・ベイカーにディーン・ベイカー、そしてポール・ベイカーです。
しかし、3人の子供に恵まれた結婚生活も、平穏ではありませんでした。それまでにも薬物事件を多数起こしていたチェット・ベイカーは、妻が3人目の子供を妊娠している最中に、薬物絡みの暴行事件に見舞われます。その結果、トランペット奏者には大切な前歯を折られます。もともとドラッグと女性たちに常に囲まれた生活を送っていたチェット・ベイカー。結婚をするも浮気や不倫を繰り返すことで、3回の結婚生活すべてを自ら破綻へ導く結果となっています。
チェット・ベイカーの死因は転落死だった!映画「ブルーに生まれついて」のラストが美談すぎる?!
チェット・ベイカーがオランダのアムステルダムで謎の転落死!事故死?自殺?ドラッグとの関連は?
1988年5月13日、オランダのアムステルダム中央駅近くの安宿の階下で、チェット・ベイカーが変わり果てた姿で発見されました。この事件を処理した地元警察は当初、よくある薬物中毒者のオーバードーズだと考えたと言います。実際、地元警察がそう勘違いしてしまうほど、チェット・ベイカーが転落死した場所は、オランダの中でも薬物中毒者が巣くっていることで有名なエリア。そんな町の安宿に、まさか世界的なジャズメンが宿泊しているとは思ってもみなかったのでしょう。
チェット・ベイカーが転落死した窓は縦横60cmほどの小窓で、飛び降りるためには意図的に体をねじ込まなければならないため、事故死や他殺の線はすぐに消えました。また、結婚した妻や関係者が指摘したのは、「自殺を図るような人ではない」ということです。その後の捜査で、転落死の間際まで、安宿の部屋で、普段の摂取量をはるかに超えたヘロインを摂取していたことが明らかになったチェット・ベイカー。最終的に、死因は、ドラッグのオーバードーズによる転落死とされました。
チェット・ベイカーの自伝的映画「ブルーに生まれついて」のラストが美談すぎる?!
チェット・ベイカーの晩年にフォーカスした自伝的映画「ブルーに生まれついて」が、2015年に公開されました。チェット・ベイカーを演じたのはイーサン・ホークです。彼に対する演技の評価は高く、トランペットを演奏するシーンは「実際に吹けるのでは?」と、プロの音楽家をも唸らせたほどでした。
それ以上に好評だったのが、ラストシーンの演出です。映画「ブルーに生まれついて」のラストでは、チェット・ベイカーは、ドラッグを絶つことを恋人ジェーンと約束しますが、ヘロインを打ってステージに上がってしまいます。客席から見ていたジェーンは、彼が約束を破ったことに気付き、チェット・ベイカーからもらった指輪を置いて立ち去ります。
非常に印象的なラストシーンとなりましたが、実は、映画「ブルーに生まれついて」で献身的にチェット・ベイカーを支え続ける恋人ジェーンは実在しません。チェット・ベイカーの実在する妻や恋人たちは何らかの問題を抱えている者ばかり。そのため、美談となるようにかなり脚色されている点は、批判の的となりました。
さらに、イーサン・ホークの歌声は、チェット・ベイカーのキーより短6度低めです。そのため、雰囲気を似せようとする演技こそ素晴らしいものの、「キーがあまりにも低すぎる」「有毒な歌声の再現」など、一部の音楽家からは厳しい評価を受けました。
チェット・ベイカーの音色が蘇る!タワーレコードが3枚組コンピレーションアルバムを発売
2018年4月20日に、チェット・ベイカーの3枚組コンピレーションアルバム「Born To Be Chet」が、タワーレコード限定で発売されました。2018年はチェット・ベイカー没後30年にあたることから、タワーレコードのオリジナル企画「NOT NOW3枚組」に加わることになったそうです。
セレクトされているのは、「リヴァーサイド・レコード」と「RCA」「パシフィック・ジャズ・レコード」の音源からの全50曲。名盤「Chet Baker Sings」からも名曲が多数ピックアップされており、ヴォーカル・トラックとインスト・ナンバーの両方を贅沢に堪能できるアルバムとなっています。
ドラッグに溺れ女性にもだらしなく、音楽活動もできなくなるまで落ちてしまったチェット・ベイカー。音楽家たちの間では、天性の音楽センスを除くと「どうしようもないダメ人間」という烙印の声も。一方では、大変繊細な感性の持ち主であったようです。
実際に、ジャズの帝王マイルス・デイビスから「白人だから簡単に人気者になれた」と言われ、ひどく打ちひしがれてしまったこともありました。マイルス・デイビスの発言の背景には、「テクニックは素晴らしい」と認めながらも、チェット・ベイカーが「ジャズ界のジェームズ・ディーン」などとちやほやされる状況へのやっかみもあったのではないでしょうか。
映画「ブルーに生まれついて」はあくまでエンターテイメント作品であり、恋愛映画として、あるいは脚色された伝記映画としては十分に楽しめます。しかし、もしチェット・ベイカーの本当の姿を知りたいのであれば、河出書房新社から発売されている伝記「終わりなき闇」がお勧めです。「悪魔に憑りつかれた人生」とも揶揄されるチェット・ベイカーのダークすぎる人生。彼の歩みを知るほどに、彼の歌声やトランペットから流れ出る甘美な悲哀の正体が分かるようになるかもしれません。