森繁久彌の魅力満載映画「社長シリーズ」!偶然?!命日が森光子、高倉健と同じだった
森繁久彌は、若い頃からずっと「社長さん」
森繁久彌。もしまだ生きていたなら102歳。平成生まれの人たちは、芸能界のビップな冠婚葬祭にはかならず登場して、周りから最敬礼を受けている白髭の老人を、この人いったい何者?と思っていたに違いません。森繁久彌は、昭和世代にとって、石原裕次郎、美空ひばりと並ぶ、国民的コメディアンとして、記憶に刻まれています。
森繁久彌に関しては、自伝や数々の評論が出ていますが、当時の人で、東宝の社長シリーズ、松竹の「駅前シリーズ」、テレビでは「七人の孫」や、「だいこんの花」「おやじの髭」などを、一回もみたことがないという人はいないでしょう。なぜか、森繁久彌は、どの役もそれなりに「おえらさん」で、社長であったり、老舗の旦那であったり、はたまた退役した軍人なのです。森繁久彌は、彼らの、日常生活でみせる何気ない滑稽さや不器用さ、また哀切感を演じて、他に並ぶ者がいない天才的コメディアンでした。
そんな森繁久彌ワールド全開の都会的なコメディが、東宝の「社長シリーズ」です。恰幅よくスーツを着こなした、ちょび髭の森繁久彌が社長。堅物の総務部長に加藤大介、そして宴会好きな営業部長に三木のり平、そして、若くて真面目な社長秘書が、近年まで重厚なドラマで主役を演じていた小林桂樹だったのですから、今や昔、昭和の映画です。
なんと森繁久彌の「社長シリーズ」は、全33作品が制作されていますが、内容はほとんど変わりません。今日も今日とて、クラブのママにうつつを抜かしている社長が、出張にかこつけて不倫旅行を企てたりするのですが、そこで必ず会社の一大事が勃発。すったもんだの上、幹部みんなが協力して危機を排し、めでたしめでたしという、今では考えられないような、高度成長時代のおめでたい映画ですが、東宝独特の都会的センスが伝わってきます。
森繁久彌は、天国でも大物俳優、女優を集めて映画作り?!
森繁久彌は、2009年11月10日、96歳で大往生を遂げます。奇しくもこの「11月10日」という日は、昭和の大スター高倉健や森光子と同じ命日です。森繁久彌はあの世でも、多くの名俳優、名女優を率いて、喜劇映画を作っているのかもしれません。
森繁久彌の魅力を向田邦子が語る!子供の森繁建や森繁泉の現在は?
森繁久彌を「胡散臭い男」と称賛した向田邦子の慧眼
向田邦子は、惜しくも飛行機事故で亡くなった脚本家。国民的名コメディアン・森繁久彌の魅力を、「胡散臭さ」と表現しています。胡散臭さというのは、男が持っているもっとも露わな特性であり、また男がもっとも隠したいところでもあります。そして女に、男であることをもっとも感じさせるところでもあるでしょう。
この男の特性3つすべて表現できているからこそ、森繁久彌の演じたさまざまな男たちは、演技を超えて本物らしく見えたと、向田邦子は語っています。俗にもてる男には、「影のある男」や「華のある男」と、一方的な表現になりがちですが、男の魅力を、3つの側面から捉えた「胡散臭い男」とは、さすが、向田邦子といえるでしょう。
森繁久彌の来歴とその子供たち
森繁久彌ほどの俳優ならば、その二世にも注目が集まるところですが、現在は、息子の森繁泉、森繁健の二人で、賀茂カントリークラブを経営していて、芸能界とは関わりがありません。もともと森繁久彌は、NHKのアナウンサー出身。戦中は満州で、戦後は浅草の軽演劇を経て、映画やテレビに進出しています。
ただ森繁久彌の芸風は、他のお笑い芸人とは異なり、ジャンルにとらわれない、知的なものまねや即興芸が得意で、その芸は、今のタモリに近いものであったようです。
森繁久彌の真骨頂は、「夫婦善哉」など戦後昭和期の作品にあり
森繁久彌の映画は、一般的に「社長シリーズ」や「駅前シリーズ」が有名ですが、他にもさまざまな文芸作品に出演しています。東京の神保町シアターでは、11月21日から12月25日まで、特集上映「森繁久彌の文芸映画大全モリシゲ流、文学と映画のススメ」として、戦後昭和期の20作品を上演しています。上映作品は、「夫婦善哉」「警察日記」「神阪四郎の犯罪」「暖簾」「負ケラレマセン勝ツマデハ」「珍品堂主人」「坊っちゃん」、「魔子恐るべし」「喜劇女は男のふるさとヨ」などです。
このラインナップを見るだけでも、森繁久彌が、オールラウンドな役者であることが分かります。また、意外に知られていませんが、森繁久彌は大阪の出身で、関西弁も堪能です。元タカラジェンヌの大女優淡島千景と組んだ、織田作之助原作の「夫婦善哉」は、大店のドラ息子と、しっかり者の芸者の恋模様を、昭和初期のなにわ情緒たっぷりに描いた佳作。
森繁久彌は、ここでも向田邦子言うところの、「胡散臭い男」を熱演しています。大店のドラ息子で、世の中を斜に眺め、頼りなげながら図太く生きる、浪花男の色気があふれています。晩年は、どんな映画であれドラマであれ、ラスボス的な扱いが多かった森繁久彌ですが、森繁久彌の真骨頂は、戦後昭和期の作品にあるのかもしれません。