山下洋輔が芸人・タモリを発掘した!?トリオと過ごした福岡の夜

山下洋輔が芸人・タモリを発掘した!?トリオと過ごした福岡の夜

山下洋輔が初めてタモリと第三種接近遭遇した福岡の夜

山下洋輔は、1942年生まれの74歳。「ピアノ炎上」の名で知られる、炎に包まれたピアノを演奏するパフォーマンスでも知られたジャズピアニストです。ほかにも、映画音楽を担当したり、異ジャンルの演奏家と競演したり、落語にも通ずるなど、交流範囲も幅広い山下洋輔とタモリとの出会いは、1972年に遡ります。時に山下洋輔、30歳。タモリは、27歳でした。

福岡でライブを終えた山下洋輔トリオ一行は、ホテルの部屋で、でたらめな能の謡いをはじめて大盛り上がり。そこへ、まさに能舞台の幕口から登場したかのように、タモリが、静々と謡いながら部屋の入口から登場しました。突然の乱入者に、山下洋輔トリオメンバーは、驚くどころか、今度はでたらめな韓国語で、お前は誰かと問い質すと、たちどころに、タモリが、でたらめな中国語で返します。

その後は、まさにタモリの伝説芸、4カ国語麻雀のように、でたらめな各国語が飛び交う始末。抱腹絶倒の掛け合いが終わり、外が白みかけた頃、山下洋輔トリオの1人が、「ところであなたは誰ですか」と聞いたところ、男は真顔に戻って、「森田です」と答えたとか。これが、山下洋輔とタモリの福岡の夜の出会い。福岡でサラリーマンをしていた男が、30歳を間近に、山下洋輔らの懇願に応え、ただ宴会芸を見せるためだけに東京へ出向き、以後半世紀近く、東京に居着いてしまうとは、タモリ本人が一番驚いているそうです。

山下洋輔は肘で鍵盤を打ち弾くフリージャズの旗頭だった

山下洋輔は、世界に知られるジャズピアニストです。ジャズって何ですか?と聞かれて、あなたは何と答えますか?奴隷としてアメリカに連れてこられた黒人が、西洋の音楽や楽器にふれ、祖国アフリカの音楽と融合して生み出された、独自の音楽……といわれても、なかなか伝わりませんね。

さらに、それぞれの楽器を持った奏者が、音階もコードもリズムも関係なく、奏者の直感で、それぞれの演奏に呼応して自由に楽器を演奏するのが、フリージャズです。もはやジャンルも超えて、奏者の直感頼みといった感もありますが……。日本でも、音楽シーンにとって、エポックメイキングな70年代前後、フリージャズの旗頭として、肘で鍵盤を打ち弾くスタイルで活躍していたのが山下洋輔です。

山下洋輔のフリージャズは、音楽だけでなく、数多くの作家や文化人、芸能人を巻き込んで独自のサブカルチャーを生み出していきます。そうした彼らの最高傑作が、あのタモリだったのです。

山下洋輔「全国冷やし中華愛好会」発足秘話!最新コンサート情報は?

山下洋輔が会長だった謎の組織「全国冷やし中華愛好会」

山下洋輔は、「全国冷し中華愛好会」なるものの初代会長に就任しています。「全国冷し中華愛好会」発足のはじまりは、「ジャックと豆の木」というスナックでした。「ジャックと豆の木」は、東京にあり、漫画家の赤塚不二夫や、SF作家の筒井康隆を始め、テレビや出版関係者、ミュージシャン、得体の知れない業界人たちが夜な夜な集う店。「ジャックと豆の木」の面々は、山下洋輔が呼んだタモリの宴会芸に衝撃を受け、タモリの存在は、たちどころに各メディアに拡散されます。

こうして、サブカルチャーの発信基地と化した「ジャックの豆の木」では、タモリというシンボルを得て、新たに、とんでもなくくだらない組織が結成されることに。それが「全国冷し中華愛好会」です。由来は、山下洋輔がマネージャーと編集者の3人で行った荻窪の蕎麦屋で冷やし中華を注文したところ、季節外れだったため、断わられたことから。

「冬でも、冷やし中華を食わせろ」をスローガンに、「全国冷し中華愛好会」が結成されたのです。初代会長となった山下洋輔は、自らの元号を「冷中」と定めました。「全国冷し中華愛好会」会員には、作家の筒井康隆、評論家の平岡正明、サックス奏者の坂田明、漫画家の黒鉄ヒロシなど、サブカルチャーの猛者たちがズラリ。まさにタモリの真骨頂、不真面目を徹底的に真面目にやる会となりました。

活動の盛り上がりが最高潮に達したのは、1977年のエイプリルフール、有楽町の読売ホールで行なわれた「第1回冷し中華祭り」。会場には、タモリの深夜放送などで「全国冷し中華愛好会」を知った2000人近くの若者が集まったそうです。

山下洋輔は今なお全国各地で月10日はライブ中!7月28日はサントリーホール!

山下洋輔は、現在もさまざまなユニットを組んで、全国各地で月10日近く、精力的にライブ活動を続けています。直近では、7月20日に、サッポロミュージックテントにて行なわれる「サッポロシティジャズ」。池田篤や、水谷浩章らを引き連れた山下洋輔スペシャル・カルテットが登場します。

7月23日は、兵庫の芸術文化センターにて、山下洋輔スペシャル・セクステットが「魔夏の夜のジャズ」関連企画に出演です。山下洋輔スペシャル・ビッグバンド10周年記念のステージは、7月28日サントリーホールにて。山下洋輔が書き下ろしたオリジナル曲の初演にも注目が集まります。

山下洋輔が15人のジャズマンを引き連れてクラシック界に殴り込み?!

山下洋輔スペシャル・ビッグバンドは、今年で10周年を迎えます。2年に1回組まれるこのスペシャルバンドは、今年が6回目。「山下洋輔なしに、このバンドはありえない」というドラマーの高橋信之介ら15人の名ジャズマンが、クラシックの名曲をジャズで紡ぎます。フリージャズの山下洋輔が、ビッグバンドと、スタンダードジャズの名曲を演奏したのは、10年前。大阪フィルハーモニーと演奏した、ジョージ・ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」が初めだったそうです。

しかし今度は、名うてのジャズマンたちと組んでのクラシックの演奏。山下洋輔にとって、クラシックのフィルはあくまでアウェーであるため、アドリブは「すごい楽」なのだとか。しかしジャズマン相手となると、「それ何回も聞いたぞ」、「何やってんだ」などと言われないように、観客以前に、メンバーをオッと言わせなければならないプレッシャーがある、と緊張感を持って、コンサートの抱負を語っています。

ビッグバンドとしては、東京で6年ぶりに演奏する「ラプソディ・イン・ブルー」の他、オープニングは、愛弟子の挾間美帆が編曲した、山下洋輔の書き下ろし新曲「ノッキン・キャッツ」。また、ドヴォルザークの「交響曲第9番新世界より」を演奏する予定だそうですから、クラシックの概念を破った、聞いたこともない交響曲第9番を聞くことができそうです。山下洋輔74歳。現役のフリージャズマンは、まだまだ音楽を遊び足らないとみえます。

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