荻原浩小説「海の見える理髪店」が直木賞受賞!学歴、プロフィールは?
荻原浩はコピーライター出身のベテラン作家
荻原浩は、2016年上半期、「海の見える理髪店」で第155回直木賞を受賞しました。5度の直木賞ノミネートを経て、やっと直木賞を受賞したベテラン作家です。荻原浩は、1956年生まれの60歳。大学を卒業して広告代理店に入り、フリーのコピーライターを経て、39歳のときから小説を書き始めています。
広告業界でものを書く仕事して作家になる人は意外に多く、最近では、石田衣良や奥田英朗などがそうです。これらの作家は総じて、文章もうまく、いろいろな作品を書くことができますが、その分、決め手にかける嫌いがあります。萩原浩も、これまで数多くの作品を出し続け、少しずつ人気と実力をつけてきた作家といえるでしょう。
荻原浩ら直木賞を目指す作家たちの苦悩
荻原浩は、埼玉県出身で、成城大学経済学部を卒業しました。大学卒業後は、広告畑を歩んできた荻原浩ですが、「所詮はひとのもの」である広告の文章を書くことに倦んで、誰にも侵されない文章を書きたいとの思いから、次第に文学の道へと歩んできました。その後は、推理小説からホラーテイストの作品、サラリーマンや退職者を主人公に据えた小説など、幅広いジャンルの作品を発表し続けています。
「純文学」という言葉を辞書で引いてみると、純粋な芸術性を目的として創作される文芸作品とあります。芥川賞は、その純文学の新人に与えられる賞ですが、最近では、独自な視点から、その時代や世相の特性をとらえた作品に与えられているようです。そのためか、その作家が、その後も作品を数多く書き続け、小説家として大成することは、近年あまりないように思われます。
一方の荻原浩が受賞した直木賞は、映画や演劇と同じで、エンターテイメント作品を書いた作家に贈られる賞。近年では、直木賞を取ることができれば、プロ作家として認められているようです。もっとも、これだけ活字メディアが拡大拡散した今、小説を書くということは特別なことではなく、さらに、プロ作家として、全く新しい面白い小説を書くということも、たいへん難しい状況になってきているのも事実です。
荻原浩おすすめ小説「噂」「コールドゲーム」あらすじネタバレ!
萩原浩の初期作品「噂」はハードサスペンス、「コールドゲーム」はホラー
萩原浩の初期の作品をご紹介しましょう。「噂」は、渋谷、女子高生、都市伝説、サイコパス、バイラルマーケティングといった、流行りの要素を詰め込んだハードサスペンス。「女の子の足首を切り落としてしまう『レインマン』が出没している。だけどこの香水をつけていれば大丈夫」というバイラルコマーシャルのはずが、現実の殺人事件に発展。衝撃のラストまで、一気読み必至の作品です。
「コールドゲーム」は、学校でのいじめをテーマに、ホラー的要素を加えた復讐譚。「噂」「コールドゲーム」とも、エンターテイメントとしてはよくできているのですが、荻原浩という作家自身の顔というか、世界感には、やや乏しいといえます。
萩原浩の名を世にひろめた「明日の記憶」
萩原浩の、小説を書く技術より、彼の優しい人柄があらわれた作品が、2004年に発表された「明日の記憶」です。「明日の記憶」は、突然、若年性アルツハイマーに侵されたやり手のサラリーマンが、妻と2人で病気に向い合うというヒューマンストーリー。
翌年2005年には、第2回本屋大賞第2位となり、同年の第18回山本周五郎賞に輝きました。萩原浩の名が一般に知られるようになったのは、一連の受賞歴というよりは、俳優の渡辺謙が、「明日の記憶」を読んで感動し、萩原浩に直接映画化を申し込んで、2006年、実際に映画になってからのことでした。
萩原浩、エントリー5回目で直木賞受賞!「海の見える理髪店」
萩原浩は、「明日の記憶」以後も、精力的に、さまざまな作品を書き続け、ユニバーサル広告社シリーズや、最上俊平シリーズなど、人気の連作も生み出してきました。しかし、どの作品も、「面白いのだけれど、前に他の誰かが書いていたような」という致命的な批評の前に、なかなか直木賞を獲ることはできませんでした。
今回やっと、「海の見える理髪店」を含む短編集では、選考した宮部みゆきをして、「圧倒的な読み心地のよさと、心に残る短編集」という高い評価を得ることができました。これは、ただストーリーがよくできているのではなく、荻原浩という、60歳を迎えた人間の考える、さまざまな人の生き様に、深い共鳴が得られたということにほかなりません。
荻原浩は受賞に際して、「ほっとした」と、正直な感想を述べながらも、それぞれの作品を書く上で、主人公や登場人物が知っている言葉だけを使う、というこだわりを明かしています。1997年、初めて書いた長編小説「オロロ畑でつかまえて」で、第10回小説すばる新人賞を41歳で受賞して以来20年。荻原浩は、やっとこれでプロ作家として認められたというのが、偽らざる心境でしょう。
前回の芥川賞は、若手漫才師の又吉直樹が受賞し、純文学としては異例の200万部以上の売上を達成していますが、彼が今後、プロ作家として自立していけるかどうかは、極めて疑問です。書くという作業、人に感動を与える発想力は、漫然と、また、ただ慌ただしく日常生活を送る凡人にとって、やはり簡単にできるものではありません。