吉村昭の作品から史実を学ぶ!おすすめ作品はこれだ!
吉村昭は「戦艦武蔵」で注目された記録文学の第一人者
吉村昭は、1927年生まれで、2006年、79歳で亡くなった小説家です。小説家のイメージも、時代を経てだいぶ変わってきました。最近では、売れっ子漫才師やコンビニの女性店員が小説を書く時代です。しかし、少なくとも1970年代頃までは、作家というと、書斎で資料の山に埋もれ、頭を掻き乱して執筆する初老の男性といったイメージがありました。実際、往年のドリフターズのコントにも、こんな作家がよく登場していたのをご記憶の方も多いことでしょう。
吉村昭の執筆活動は、1960年代から21世紀初めに及びました。吉村昭の作風は、記録文学と呼ばれています。1つの出来事やそれに関わる人物の行動に関して、膨大な資料や証言をあたり、事件の真実や人物たちの生き様を真摯に描いた作品が特徴です。
たとえば、司馬遼太郎のように、独自の司馬史観という俯瞰から、出来事や人物を描くのではありません。吉村昭は、1つ1つの事実の断片を克明につなぎ合わせていくことで、その出来事の真実や人々たちの生き様を紙上に蘇らせ、読者に深い感動を与えました。
扱った題材が、かなり幅広かったことでも知られる吉村昭。出世作は、1966年の「戦艦武蔵」です。戦艦大和同様、長く歴史のベールに隠れてきた巨大戦艦の誕生から最期までを克明に描いています。
吉村昭の太平洋戦争や幕末明治をテーマにした重厚なおすすめ作品群
「戦艦武蔵」の他にも、「零式戦闘機」や「陸奥爆沈」など、吉本昭の初期の作品には、太平洋戦争をテーマにしたものが多いようです。また、幕末や明治時代を題材にしたものに、「桜田門外ノ変」や「ふぉん・しいほるとの娘」「ポーツマスの旗」などがあり、これら作品は多くが、映画やドラマ化されています。
少し変わったところでは、1915年、北海道苫前の開拓村で、ヒグマが村民を襲い、7名を死亡させ、3名に重傷を負わせた三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)を題材にした「羆嵐(くまあらし)」があります。その緊迫感溢れる描写は秀悦です。
吉村昭「三陸海岸大津波」が再評価されたワケ!プロフィールは?
吉村昭の「三陸海岸大津波」は地震や津波を考える警世の書だった
吉村昭の著作には、「関東大震災」など、自然災害をテーマにした作品もあります。なかでも近年再注目された作品が、1970年の「海の壁-三陸沿岸大津波」(文庫化にあたり「三陸海岸大津波」に改題)です。「三陸海岸大津波」は、東北三陸海岸沿いの町を襲った1896年と1933年の大津波、1960年のチリ大地震大津波の詳細な被害状況や、被災した人々の避難行動についての克明なルポルタージュでした。
2011年3月14日、東北地方を襲った東日本大震災の後、日本においては、地震や津波の危険性が常に存在するという再認識の元、警世の書として再脚光を浴びた本書。文庫化時点での累計販売部数が49000冊であったのが、震災直後には、倍の増刷が行われました。
吉村昭にみる昭和の小説家としての生き様とは
吉村昭は、典型的な戦中世代でした。東京の日暮里に生まれた吉村昭は、小さい頃から肺に病気を持つ虚弱体質で、戦中、戦後を過ごし、学習院大学に進んで文芸部に所属。文芸部で知り合った北原節子(小説家の津村節子)と結婚します。吉村昭は、大学を中退後も同人誌で小説を書き続けました。
幾度か芥川賞候補になりますが授賞できず、1965年、妻の津村節子が「玩具」で先に芥川賞を受賞します。一般に名が知られるようになるのは、翌年1966年、「戦艦武蔵」を発表してからです。このとき吉村昭は、40歳を迎えようとしていました。以後は晩年に至るまで、旺盛な作家活動で数多くの文学賞に輝いています。
吉村昭「破獄」がテレビ東京開局記念ドラマで30年ぶりにドラマ化
吉村昭が、個人をクローズアップした作品は珍しいですが、昭和の脱獄王と呼ばれた男を描いた作品が1983年の「破獄」です。この作品は、実在の天才的脱獄犯・白鳥由栄(しらとりよしえ)にまつわる話を、吉村昭が元担当刑務官から聞き取った実話を元に描き切ったフィクション。
今まで誰も知らなかった、戦前から戦後にわたる刑務所の実態を克明に描いた記録小説であり、また、脱獄に飽くなき執念を燃やす男のピカレスクロマンともいえます。その内容たるや、まさに事実は小説より奇なりのストーリー展開で、小説が発表されてすぐの1985年に、NHKにおいて、名優・緒方拳が脱獄犯を演じドラマ化されました。それから30年の時を経て、2017年4月、テレビ東京の開局記念ドラマで再びドラマ化されています。
主人公の脱獄犯には、若手怪優の山田孝之が、また、担当の刑務官をビートたけしが演じ、話題となりました。共演者には、橋爪功や寺島進、松重豊などの個性豊かなベテランや、池内博之や中村蒼など若手実力派俳優に、今をときめく吉田羊や満島ひかりという豪華なラインナップでした。
テレビドラマ制作に対する、テレビ東京の並々ならぬ意気込みが感じられますが、視聴者が、このドラマを見て、記録文学の第一人者、吉村昭の本格的な作品群に興味を持つことあれば何よりでしょう。