アレックス・ヘイリーという作家の「ルーツ」を追う――ドキュメンタリーなのにフィクション?盗用疑惑の真相とは

アレックス・ヘイリーという作家をご存知でしょうか。アフリカ系アメリカ人の作家であり、ドキュメンタリー小説「ルーツ」という作品で一躍有名になりました。

黒人奴隷問題に真っ向から立ち向かった「ルーツ」は小説という風体を取りながらも、随所に散りばめられた「限りなく事実」であるファクト(事実)が目立つ構成であることから、「ファクション」という新しいジャンルを作ったことでも知られています。

ドラマ化もされているこの作品「ルーツ」について、そしてアレックス・ヘイリーという作家について、今一度おさらいしておきましょう。

小説「ルーツ」が世界的ベストセラーに!アレックス・ヘイリーとはどんな作家?

作家アレックス・ヘイリーはニューヨーク出身。父親は大学で教員として農業を教え、母親は小学校教師という家庭に生まれ育ちました。若くして沿岸警備隊に所属したアレックス・ヘイリーは三等兵曹に昇格した後、自ら望んで広報へ転勤願いを出しています。

念願かなってジャーナリズムの世界へ飛び込んだアレックス・ヘイリーは、その後1959年に退役。彼の代名詞ともいえる小説作品「ルーツ」は、その後約12年の執筆期間を経て出版されています。

彼は「ルーツ」以前に「マルコムX」という自叙伝を出版しており、その他にも「クイーン」という作品を世に生み出しています。後述しますが、「ルーツ」「クイーン」はともに映像化もされ、ピューリッツァー賞など、様々な賞までも総なめにした大ベストセラー作品となっています。

「ルーツ」は黒人奴隷問題に真正面から切り込んだ“問題作”

アレックス・ヘイリーという作家の名を世に知らしめるきっかけとなった「ルーツ」という小説作品は、西アフリカの土地から強制的に連行されてきた黒人の少年、クンタ・キンテを主人公に据えた、黒人奴隷一族の長い歴史を綴った歴史小説という立ち位置に在ります。アレックス・ヘイリー自身の曽曽曽曽祖父と、その下何代も続いていく子孫たちの活動の軌跡を描いている作品で、その執筆には約12年もの歳月が費やされました。

ノンフィクション部門で大ベストセラー記録を樹立した「ルーツ」は、ピューリッツァー賞など名だたる賞を総なめにしています。そして1977年にはドラマとして映像化もされています。「ルーツ/ROOTS」というタイトルでABCドラマが製作・放映した同ドラマの平均視聴率は、45%を上回ったとか。主人公のクンタ・キンテ役は、ベン・ベリーンという俳優が熱演しました。ちなみにこのドラマ版「ルーツ」は、2017年8月に新シリーズも製作・放映されています。

この「ルーツ」、ジャンルとしてはノンフィクションという括りではありますが、完全なるドキュメンタリー作品ではありません。黒人奴隷問題に関するファクト(事実)とフィクションを融合させた新ジャンル、「ファクション」とも呼ばれています。

黒人奴隷に関する描写には目を背けたくなる部分が多々あり、とても涙なしには読めない読者の方も多かったのではないでしょうか。アメリカ=自由という図式が出来上がるまでの歴史に、いったい何があったのか?アレックス・ヘイリーという作家の目を通してありのままの現実を切り取った、言わば“問題作”といえるでしょう。

この作品に一部盗作部分があるとして訴えが出たこともありますが、ヘイリー自身が一部盗用を認め、その後和解しています。

「ルーツ」だけじゃないアレックス・ヘイリーの小説「クイーン」

黒人奴隷問題を扱った「ルーツ」で世に出たアレックス・ヘイリーは、その後「クイーン」という小説も出版(未完)、映画化もされています。

「ルーツ」はアレックス・ヘイリーの母方の系列をなぞった物語ですが、こちらは父方の系列をなぞった物語。同じく奴隷問題を扱ったストーリーで、女性視点から見た壮絶な顛末に、「ルーツ」と同じく直視できない部分も織り交ぜられています。

「クイーン」とはこの小説の主人公であり、世知辛い時代を懸命に強く生き抜いた女性の名前。終始このクイーンの生涯を追っていくストーリーの中から得られるものは、出自がはっきりしない人生でも、自分というものをしっかり持っていさえすれば生きる障害にはならないということ、いずれ自由を謳うアメリカという土地の土台には、確かにたくさんの人類の我慢と理不尽と血が流れていたのだという確固たる事実です。

ヘイリーに因んで名づけられた沿岸警備隊カッター「アレックス・ヘイリー」

アレックス・ヘイリーの名に因んで名づけられた、沿岸警備隊の救難艦があります。元は「イーデントン」という米海軍保有の艦で、青年時代に沿岸警備隊員であったアレックス・ヘイリーへの敬愛の念を込めて名が残されたのでしょう。

戦艦ではなく、海上での緊急事態に備えて出動する救難艦として現在も使われている「アレックス・ヘイリー」。黒人奴隷問題に真っ向から向き合い、物語として爪痕を残した彼の強い思いは、現代にも脈々と息づいていることがわかります。

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