つかこうへいに鍛えられた豪華俳優陣!石原さとみ、阿部寛、草なぎ剛の出演舞台とは?
つかこうへいは、モデルやアイドルを本格俳優に育てる天才だった!
つかこうへいが目をつけ、彼の演劇メソッドにそって舞台に立たせると、役者だけでなく、モデル上がりやアイドルであっても、誰もが役者として開眼し、大きな転機となっていきました。初期の頃は、劇団に所属していた風間杜夫や平田満、三浦洋一、そして根岸季衣などが、またたく間に役者として頭角を現し、映画やテレビへと巣立っています。後期に向けては、今、絶好調の阿部寛が「熱海殺人事件」でゲイの刑事部長役を、SMAPの草彅剛が「蒲田行進曲」のヤスを演じました。
女性陣は、今やアイドルから女優への登竜門ともいえる「幕末純情伝」の竜馬役を、時々のアイドルたち、富田靖子、牧瀬理穂、石田ひかり、広末涼子、内田有紀、そして石原さとみなどが演じ、それぞれが高い評価を得ています。つかこうへいは、エモーショナルなカリスマ演出家というイメージが強いですが、あらかじめ、何が受け、誰が伸びるかを見抜く、シビアな商業演劇プロデューサーとしての目も確かであったようです。
つかこうへいは、「つか以前、つか以後」と語られる戦後演劇界の革命児
つかこうへいが亡くなって、もう5年。わずか62年の生涯でした。「つか以前、つか以後」といわれるほど、日本の演劇界に革命をもたらしたつかこうへい。劇作家、演出家として実質的に活動していたのは、劇団「つかこうへい事務所」を立ち上げた1974年から、劇団を解散する1982年までの、たった10年足らず。その濃密な時間の中で、つかこうへいは、前世代のアングラ芝居のように、反体制的で難解な芝居ではなく、巧みに当時の社会風俗を取り入れながら、誰が見ても心揺さぶられる王道のラブストーリーを数多く生み出しました。
出世作「熱海殺人事件」をはじめ、「初級革命講座飛龍伝」、「蒲田行進曲」、「幕末太陽伝」などは、その完成された物語が次々と小説化。その類まれなエンタティメント性は、映画にまでなっています。舞台においては、すでに完成された研ぎ澄まされた台詞を、稽古場で役者の芝居を見ながら、「口立て」と呼ばれる台詞直しで、完璧なまでに役者と一体化させたつかこうへい。しかし、その演出は、罵詈雑言、苛烈を極めたといいます。
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つかこうへいの、言葉や遺書に見る深い諦念
つかこうへいは優れた劇作家として、印象深い言葉を数多く残しています。「人間にとって大切なのは、何を恥と思うかです」、「くだらないプライドやエゴは、全部捨てて心を裸にしてこそ」。また、がんに侵された体を押して書かれたつかこうへいの遺書も感動的です。「友人知人の皆様、つかこうへいでございます。
思えば恥の多い人生でございました。先に逝くものは、後に残る人を煩わせてはならないと思っています~(以下省略)」。立つ鳥跡を濁さず。一時代を駆け抜けた演劇界の風雲児つかこうへいは、含羞の人であり、恐ろしいほどの諦観を心に抱えた人であったのかもしれません。
つかこうへい、在日二世としてのアイデンティ「「娘に語る祖国」
つかこうへいを、より演劇界のカリスマにしたのは、彼の出自にもあります。つかこうへいは、在日韓国人二世であり、彼のペンネームである、つかこうへいは、「いつかこうへいに」という在日差別に対する強い思いが込められていると伝えられています。つかこうへいは、1982年に劇団を解散後、しばらく執筆活動に専念。1987年には韓国を訪れ、ソウルで韓国人役者による「熱海殺人事件」を上演して大成功を収めました。
この時出演した役者たちもまた、現代韓国を代表する役者になっていて、つかこうへいの、劇作家、演出家としての普遍性が証明されたといえます。つかこうへいは、1980年に、女優熊谷真美と結婚しますが、1982年に離婚。1983年、元つか劇団の女優、生駒直子と再婚し、一人娘をもうけます。娘は長じて、元宝塚歌劇団雪組トップ娘役、愛原実花に。最近では、人気歌舞伎役者、片岡愛之助との交際が話題になりました。
つかこうへいは、自らのアイデンティティを巡る旅であった韓国訪問と、在日韓国人であることを告白したエッセイ集「娘に語る祖国」を残しています。
つかこうへいの「寝取られ宗介」を、ジャニーズの錦織一清が演出舞台化
つかこうへいの命こそ途絶えたものの、現在では、高校や大学で演劇を始める若者たちの多くが、つかこうへいの作品に挑んでいるそうです。商業演劇においても、つかこうへいの作品は、今も変わらず人気の演目。この4月と5月には、ジャニーズ少年隊の錦織一清演出による、つかこうへい原作舞台「寝盗られ宗介」が、大阪松竹座、東京の新橋演舞場で上演されます。主演は、ジャニーズA.B.C- Zの戸塚祥太。
その妻役は、女優の高橋由美子が務めます。「寝取られ宗介」は、自分の妻に対する愛を昂揚させるため、女房を他の男と駆け落ちさせるという、屈折したドサ回り一座の座長と劇団員たちとのコメディですが、この作品もすでに映画化されています。映画では、なんと座長役を原田芳雄、妻役を往年のプツツン女優、藤谷美和子が務め、初老の男の可笑しみ切なさと、若い女の無意識な奔放さ残酷さが、記憶に残る作品でした。
さて、錦織一清は、つかこうへいの芝居を、いかにジャニーズ風に仕上げることができるか、注目です。つかこうへいの作品は、エンタティメント性に富み、ストーリーもしっかりしているので、映画化は、監督の腕次第ですが、この映画版「寝取られ宗介」は、数多くの問題映画を世に出した若松孝二監督の作品でした。映画化された作品の中でもっともヒットし、逆に、つかこうへいの名前が一般にも知られるようになったのは、1983年、あの階段落ちのシーンで名高い、深作欣二監督の「蒲田行進曲」。「蒲田行進曲」と聞けば、銀ちゃんの名台詞、「女房が、これ(おなかを示して)だもんで」を思い出してしまうのは、今や昭和世代の人たちだけでしょうね。