山下澄人の芥川賞受賞作「しんせいかい」あらすじネタバレ!プロフィールは?

山下澄人の芥川賞受賞作「しんせいかい」あらすじネタバレ!プロフィールは?

山下澄人の芥川賞受賞作「しんせいかい」あらすじネタバレ!

山下澄人(やましたすみと)は、劇団を主宰し公演活動を行う傍ら、小説家としても作品を発表してきました。2017年、山下澄人が第156回芥川賞を受賞した「しんせいかい」は、山下澄人自身が参加していた、演劇のための私塾「富良野塾」での経験を下敷きにして書かれた作品です。

芥川賞受賞作「しんせいかい」のあらすじをご紹介。高校卒業を控えたスミトは、誤配された新聞に載っていた「塾生募集」の記事を見て、俳優や脚本家を養成する「富良野塾」に入塾することを思いたちます。「富良野塾」で待っていたのは、厳しい環境の中で農作業や馬の世話をしつつ、演劇の授業を受ける日々。あまりの過酷さに逃げ出す者もいましたが、スミトは踏みとどまりました。

その後、スミトがどのように進んでいったのか……ネタバレをすると、塾で1年を過ごした頃、スミトは、地元に残し、文通をしていた女性「天」から便りを受け取ります。手紙に記されていたのは、結婚し、妊娠中であるという近況でした。それを契機に、「富良野塾」の一期生が去り、三期生が入団する中、スミトが塾から出たところで物語は終わります。

山下澄人が芥川賞受賞!倉本聰の富良野塾出身という驚きのプロフィール!

山下澄人が受賞した芥川賞は、又吉直樹の「火花」や、村田紗耶香の「コンビニ人間」と、話題作が続いています。2017年、芥川賞作家として名を連ねることになった山下澄人もまた、新たに耳目を集めるタイプの作家といえるでしょう。そんな山川澄人のプロフィールは、兵庫県神戸市出身で、1966年生まれの51歳。劇団FICTIONを主催する劇作家にして、俳優も務めるという多彩な顔の持ち主です。

さらに、ドラマ「北の国から」で知られる脚本家・倉本聰が開設した、演劇のための私塾「富良野塾」の二期生だったという驚きの経歴の持ち主でもあります。「しんせかい」を読むと、山下澄人のこれまでの経験があますところなく生かされていることが感じられるでしょう。

山下澄人おすすめ小説「コルバトントリ」「ルンタ」「鳥の会議」あらすじネタバレ

山下澄人のおすすめ小説「コルバトントリ」「ルンタ」あらすじネタバレ

山下澄人の小説には、シンプルながら的確な描写や、リズム感あふれる軽妙な会話で進んでいくように見えて、やがて物語が夢や妄想と錯綜し、読者を現実とも夢とも分からない不思議な世界に誘うという部分があります。そんな特徴がよく表れているおすすめ小説が「コルバトントリ」です。主人公のぼくを通して、貧しいながらも愛すべき周囲の人々を描くというのがあらすじですが、やがて生者だけでなく、死者までも登場するところが特徴的といえます。

また、同じく山下澄人作品「ルンタ」も、生きることにうんざりした主人公が、死んだはずの友人と、記憶の中の女性・ユとともに雪山をめざすという、生死の世界が混在する作風。ネタバレすると、タイトルの「ルンタ」とは、主人公が雪山で出会う黒い馬のことです。

山下澄人の小説家キャリアはわずか5年!町田康も絶賛の「鳥の会議」とは

山下澄人が小説に取り組み始めたのは、2011年からと、ごく最近のことでした。しかし、わずか5年のキャリアながら、その才能は突出したものだったようです。2015年に発表した「鳥の会議」は、三島由紀夫賞候補に残り、作家の町田康が、「俺らのぼろぼろの魂が初めて小説になった」と絶賛するなど、注目を集めました。

「鳥の会議」の主人公は、中学生のぼく。ぼくと神永、三上、長田の4人組は、教師や先輩からの抑圧を暴力ではねつける日々を送っています。あるとき、神永が父親を殺してしまうという衝撃的な事件が起こって……。中には、1人称や3人称が混在する文体に、「言いたいことが分からない」という批判もありますが、「たまらなく懐かしい気持ちになる」「リアルではないけど、説得力がある」など、好意的なレビューも数多くみられる作品です。

山下澄人は50代の新人作家!高齢でも芥川賞を受賞できたわけ

山下澄人が受賞した芥川賞は、純文学の新人賞です。そのため、「無名もしくは新進作家の創作中最も優秀なるものに呈す」と規定にもある通り、受賞作家は、20代、30代の作家が中心となっています。近年話題となった受賞者の羽田圭介は29歳、又吉直樹は35歳で受賞していますし、2003年に受賞した綿矢りさはわずか19歳、同時に受賞した金原ひとみも20歳と若く、話題になりました。

その中で、山下澄人は、受賞当時50歳。50代での文学新人賞の「受賞」という部分だけを見れば、山下澄人は遅咲きの新人といえるのかもしれません。しかし、山下澄人が小説を書きはじめたのは2011年。わずか5年のキャリアで偉業を成し遂げたと考えれば、他の若い受賞者たちと立場はそう変わらないとも言えるのでしょう。

倉本聰の「富良野塾」で学んだことからも分かる通り、山下澄人は、演劇界を中心に活動してきました。現在は、北海道を中心に活動する劇団「FICTION」を主宰する劇作家であり、演出家であり、俳優でもあります。演劇人として30年以上活動してきた中、2011年に小説の執筆を本格的に始めたのは、編集者のすすめによるものでした。

2011年といえば、阪神淡路大震災のあった年。神戸出身の山下澄人の実家は全壊したといいます。当時の山下澄人は、北海道で芝居の稽古をしており、神戸に戻れたのは震災の1カ月後でした。当時を振り返って、山下澄人は、「一瞬にしてすべてがなくなった。あの時、何かの『素顔』を見た気がした。何やったんやろなってずっと思っている」と語っています。

そんな思いが山下澄人を小説執筆に向かわせたのか……震災について直接書くことはありませんが、山下澄人の小説には、死者と生者が入り混じり、社会のルールを揺り動かすような不思議な世界が描かれます。事実、山下澄人自身も、「震災は、意識するとかしないとかのレベルではない。(あれから)常にある」と語っており、その経験が、常に表現に滲みだしていることは間違いありません。

山下澄人は、小説に取り組みはじめた翌年2012年に、早くも「ギッちょん」で芥川賞候補にあがります。さらに、「緑のさる」で野間文芸新人賞も受賞。2013年には、「砂漠ダンス」「コルバトントリ」で再び芥川賞候補に。しかし、視点や時間軸が目まぐるしく入れ替わる山下澄人の実験的ともいえる小説手法が、選考委員からは不評で落選続きでした。選考委員の1人、作家の山田詠美は「たくらみに満ちているのは認めるが、それも過ぎたるは及ばざるがごとし、だろう。時間軸をいじくり過ぎて、私には、主人公が変な人に見える」と評しています。

今回芥川賞を受賞した「しんせかい」は、その実験的な手法が巧みに昇華され、さわやかな読後感をもたらす青春小説に仕上がっている点が評価されました。2011年に小説執筆に取り組みはじめて5年でここまで登りつめた山下澄人。しかも、40代から50代という時期に、驚異的なスピードで成長を遂げたのですから、その実力はまだ発展途上なのでしょう。山下澄人自身は、「僕が芥川賞作家ですよ。うそやろって感じ」と語っていますが、この稀有な才能の行方を見守っていきたい読者は多いのではないでしょうか。

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