フォルクスワーゲン社のクリーンディーゼル車排ガス規制不正問題とは?
フォルクスワーゲン社 世界が震撼したクリーンディーゼル車排ガス規制不正
9月19日、フォルクスワーゲン社のクリーンディーゼル車に搭載された排ガス規制装置に、規制を逃れるため、不正データを仕組んだソフトウエアが発見されたという衝撃的ニュースが、全世界を駆け巡りました。
すでに一カ月が過ぎた今、事件は、一自動車メーカーの不正事件に止まらず、世界的な経済不安を招きかねない状況に陥っています。
フォルクスワーゲン社 ディーゼル車が持つ根本的問題と、想像を絶する保証問題
日本やアメリカでは、これまでガソリン車が主流でした。しかし、欧州では、燃費のよいディーゼル車が、その経済性の高さで主流。しかしディーゼル車は、燃費が良い分、排ガスが多いという根本的矛盾を抱えていました。各国では、環境を考慮した排ガス規制が進み、また、ハイブリット車や、排ガス自体が出ない電気自動車、水素自動車も実用化が進んでいます。
自動車産業が世界市場で競争をよぎなくされている今、ディーゼル車の排ガス対策は、ほぼ限界にきていました。そのため、今回のフォルクスワーゲン社の不正問題は、ついに、起こるべくして起こった不祥事ともいえます。しかし問題は、単なる不正問題にとどまりません。
それは、これから全世界で生じる、1100万台、制裁金2兆円ともいわれる膨大なリコール問題です。もしこれが実行されれば、フォルクスワーゲン社の経営は危機に瀕し、ひいてはドイツ経済の信用不安にも発展する可能性があるからです。この問題をフォルクスワーゲン社がいかに対応するか、今、世界の注目が集まっています。
フォルクスワーゲン社の社風「傲慢」「自賛」「上司絶対」が不正の原因?
フォルクスワーゲン社だけではない、企業不正の実態
このような企業ぐるみの不祥事が明るみに出ると、当然のように、なぜこのような不正が行われたかという犯人探しが行われます。そして、末端の直接手を下した社員だけが、その責任の全てを負う場合がほとんでです。しかし最近の傾向としては、その企業自体が、何事においても企業利益を優先する経済至上主義に陥り、企業幹部が無意識的(表面上は)に部下に圧力をかけいるように思われます。
そして部下は、与えられた目標や利益を無理からでも達成するため、結果、不正を働くという考え方も出始めています。そして事が明るみに出ると……経営幹部は、そのような不正を指示した覚えはないと言い張るのです。
フォルクスワーゲン社と変わらない、日本企業の不正体質
今回のフォルクスワーゲン社の不正に関しても、不正が露見した後開かれた最高経営会議で、経営トップであったフォルクスワーゲン会長マルティン・ヴィンターコルン氏は、自分は知らなかったとして、辞任することを必死で拒んだといいます。結局、彼は事の重大さに辞任せざるを得ませんでしたが。
フォルクスワーゲン社に限らず、このような伝統ある巨大な会社に共通しているのは、強力な中央集権体制が構築されたことによる、自社にたいする強い誇りとうぬぼれ。それが、上司に対してものが言えない、閉塞した内向きの組織を形成しています。
そして、全ては会社の利益と存続のためという間違った忠誠心が、本来はその間違いを正すべき、会社の中堅やベテラン社員の中に蔓延してしまうのです。「傲慢」「自賛」「上司絶対」、これは何もフォルクスワーゲン社に限ったことではありません。
最近の日本企業のさまざまな不正問題にも当てはまります。東芝の不正会計や、東洋ゴムの耐震データ偽装、三井不動産レジデンシャルのマンション傾斜問題など、どれも構図は同じなのではないでしょうか。
フォルクスワーゲンの不正事件は、ドイツ人の国民性か?
今回のフォルクスワーゲン社の不正問題で、もう1つ言及されていることがあります。この不正のもとは、ドイツ人自身の国民性にあるという指摘です。ドイツ・シュトゥットガルト在住の作家、川口マーン惠美氏は、「ドイツ人は、自分が正しくありたいと願い、正しい自分に陶酔する傾向があり、その自己陶酔が過ぎると、今度は理性をかなぐり捨てて、倫理観だけを前面にかざし、自己礼賛とともに非合理の極みに向かって猪突猛進していく、というような国民性がある」と指摘しています。
他の車と比べても、燃費がよく、かつ排ガスも出さないというのは、ディーゼル車では根本的に不可能なのに、ドイツ人は自らの誇りと技術力にかけて、これを実現しようとしました。それが不可能と分かると、今度は検査システムに手を加え、データを改ざん。無理から排ガス規制に合致したように見せかけようとしたのです。
しかし、この国民性は、ドイツだけのものでしょうか?第二次世界大戦において、日本はドイツと共に、他の欧米やアジア諸国に対し、世界に冠たる民族として、戦争を引き起こし敗戦しました。しかし戦後は同じように奇跡の復興を遂げ、今また新たに世界有数の経済立国として、グローバリズムの中で経済的覇権を争っています。ドイツ人と日本人は、よく似ていると言われます。「人のふり見て、我がふり直せ」。日本の企業は、日本人は、本当に大丈夫なのでしょうか。