菊田一夫の「君の名は」は新海誠監督の「君の名は。」とは全くの別作品!

菊田一夫演劇賞は菊田一夫を讃えた賞!記念館はどこにある?

菊田一夫演劇賞は劇作家の菊田一夫を讃えた賞!

菊田一夫演劇賞の名は、ミュージカルやお芝居といった舞台鑑賞が好きな人ならば、一度は聞いたことがあるでしょう。また、商業演劇の舞台関係者ならば、ぜひ受賞したいと憧れる賞に違いありません。その年に東京で上演された演劇作品の中から特に優れたものに贈られる演劇賞の1つである菊田一夫演劇賞。日本の演劇界の発展に大きく貢献した劇作家の菊田一夫の功績を讃えて、1973年に亡くなった菊田一夫の死後となる1975年に創設されました。

これまで、森光子、松本幸四郎、平幹二郎、三谷幸喜といった錚々たる面々が菊田一夫演劇賞を受賞しています。

菊田一夫記念館はどこにある?実は疎開先だった!

「放浪記」や「がめつい奴」「がしんたれ」といった人気舞台作品を数多く作り出した菊田一夫。その活躍を讃えて、岩手県奥州市江刺区には、菊田一夫記念館が作られています。岩手県奥州市は、菊田一夫が、戦時中に家族とともに疎開していたところ。菊田一夫は、身を寄せていた及政旅館から見えた岩谷堂町役場(現在の奥州市江刺区南町)を、戦後すぐに手掛けたラジオドラマ「鐘の鳴る丘」に登場する孤児院の建物のモデルにしています。「鐘の鳴る丘」は、敗戦の痛手にあった日本人の心を励まし、主題歌「とんがり帽子」とともに大ヒットしました。

菊田一夫の「君の名は」は新海誠よりも人気!?「がしんたれ」など代表作は?

菊田一夫は「君の名は」の元祖!新海誠よりも人気だった!?

「君の名は」と言うと、今は、新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」を思い浮かべる人がほとんどではないでしょうか。しかし、「君の名は」の本家本元は菊田一夫です。彼が脚本を手掛け、1952~1954年まで放送されたNHKのラジオドラマ「君の名は」は、空前の大ブームを巻き起こし、ドラマの放送時間になると「(銭湯の)女湯が空になる」と言われたほどでした。

映画化やドラマ化が何度もなされ、鈴木京香主演でNHK朝の連続テレビ小説にもなっています。新海誠監督の映画も空前の大ヒットとなりましたが、元祖の菊田一夫の「君の名は」は、当時誰もが知っている国民的作品でした。

菊田一夫の代表作「がしんたれ」とは?小説も書いていた!

「君の名は」は、脚本家・菊田一夫にとって代表作といえる作品ですが、菊田一夫が手掛けたのは、舞台やドラマの脚本だけではありません。小説執筆にも意欲的で、中でも「がしんたれ」が代表作と言われています。「がしんたれ」は、幼い頃、家庭の事情が複雑だったため、養子に出されて台湾に渡り、さまざまな家を転々とした末、大阪や神戸で奉公に出されたという菊田一夫の半自伝的小説です。

タイトルの「がしんたれ」は、大阪弁で「いくじなし」「甲斐性なし」といった意味ですが、現在ではあまり使われないため、年配の方でないと馴染みはないかもしれません。

菊田一夫の「君の名は」は新海誠のものとは全くの別作品!ミュージカルの第一人者だった!

「君の名は」のイメージは、今やすっかり新海誠監督のアニメ映画に塗り替えられてしまった感がありますが、元祖「君の名は」の人気ぶりを知る年配の方にとっては、やはり菊田一夫版が一番でしょう。2つの作品は同じタイトルですが、もちろんストーリーは全く別のもの。新海誠監督の「君の名は。」は、現代の日本を舞台にした高校生の男女が主人公ですが、菊田一夫の描いた元祖「君の名は」は、第二次世界大戦の戦中から戦後を舞台に描かれる大人の男女の恋愛ドラマです。

物語の始まりは、東京大空襲の夜。激しい戦火の中で偶然一緒になり、助け合って逃げのびた真知子と春樹が、お互いに無事に生きていたら、半年後にまた同じ場所で会おうと約束します。互いの名も知らないまま別れたため、時にニアミスするものの、なかなか再会できない2人。ついに再会した時には、真知子は嫁ぐことが決まっていたと、いうあらすじです。

ちなみに、2人が再会を約束した東京の数寄屋橋は、東京オリンピックにともなう再開発で撤去されてしまいました。今は、数寄屋橋交差点の近くにある数寄屋橋公園に「数寄屋橋 此処に ありき」と刻まれた石碑が建てられています。この石碑の文字は、菊田一夫の筆によるものだそうです。

多くの作品で戦後の日本国民の心をとらえ励まし続けた菊田一夫の功績は、日本におけるミュージカルの発展という部分でも非常に大きいものです。たとえば、ミュージカル「マイフェアレディ」の上演権を獲得し、日本で初めてブロードウェイミュージカルを上演したのも菊田一夫で、日本のミュージカルのレベルを一気に押し上げたといわれています。

そのせいか、菊田一夫演劇賞は、ミュージカル作品に贈られることも多いようです。これまでには、「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」といったミュージカル作品の出演者・スタッフ一同が菊田一夫演劇大賞を受賞したこともあります。ちなみに、2017年の菊田一夫演劇大賞は、「8月の家族たち August: Osage County」と「炎 アンサンディ」に出演した麻実れいが受賞しました。

演劇賞は、ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」に出演した中川晃教、ミュージカル「1789 -バスティーユの恋人たち-」やブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」に出演した小池徹平、「食いしん坊万歳!~正岡子規青春狂詩曲~」に出演した新橋耐子、ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」やミュージカル「手紙2017」に出演した藤田俊太郎が受賞するなど、やはりミュージカル作品からの受賞が目立っています。

「君の名は」の看板は、新海誠監督に上書きされてしまった菊田一夫ですが、演劇界に残した功績は、菊田一夫演劇賞とともに変わらず残り続けることでしょう。

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