2019年6月27日 更新
紫式部の名を知らない人は、少なくともこの日本にはいないでしょう。有名な「源氏物語」の作者であり、平安時代中期に活躍した女流作家・歌人です。
生まれ年は正式に判定されてはいないようですが、最近の研究では970~978年の間に出生した説が有力視されています。また、その後1019年までは存命だったこともわかっているのだとか。
「源氏物語」の作者であることが最も有名ですが、他にも、藤原道長からの用命によって宮中に上がっている最中に書かれた「紫式部日記」も秀逸です。また、歌人としての作品も遺されており、代表的な作品には、紫式部が幼少期から晩年にいたるまでの間に詠んだ和歌を自選して収めた「紫式部集」が挙げられるでしょう。
清少納言との作風、性格の違いは?
紫式部は、小さな頃からいわゆる「才女」として扱われることが多かったようです。当時の日本女性として求められる以上の才能で、スラスラと漢文を読みこなしてみせたなど、あらゆる逸話が残されていることでも有名です。
また、流通量がかなり少ないため、あまり目にする機会はないかもしれませんが、2000年に発行された二千円札の裏面には、紫式部の小さな肖像画と「源氏物語絵巻」の一部が描かれています。ちなみに表面に描かれている絵は、沖縄県那覇市の首里城にある守礼門です。
紫式部は998年頃に結婚。相手となった藤原宣孝とは親子ほどの年の差がありましたが、翌年には長女を授かりました。しかし、この夫婦生活は幸せに満ちたものとはいえなかったようで、およそ3年ほどで死別してしまいます。
中宮彰子に仕えた「源氏物語」の作者である紫式部と、中宮定子に仕えた「枕草子」の作者である清少納言は、同じ時代を生き、同じ女流作家であることからも、たびたび比較対象に挙げられます。経歴も似ていることで有名ですが、2人の性格は真逆といっていいものだったそう。
加えて、紫式部と清少納言はとても仲が悪かったという逸話もありますが、実際のところはどうだったのでしょうか。確かに、2人がそれぞれ仕えていたのは、互いに権力を争う家でした。また、女流作家として生業も同じにしていましたから、互いに意識することも多かったのではないでしょうか。
清少納言が執筆した「枕草子」は、当時仕えていた中宮定子の周りにいる女たちが共に持っていたある種のセンスを教えてくれる作品です。日常的な描写も多く、普段使っている言葉や世俗の話題など、現実世界を生きる人間のあり方がまざまざと表現されています。
一方、紫式部の「源氏物語」は、いわば「もののあはれ」を表現した文学だとしてたびたび評価されています。これは現代でいうなら、心の隅にまでじわっと沁みる感動を表現した言葉。清少納言の描いた、どこまでも現実的な作風と比較すると、心象世界がより浮き彫りになるような言葉遣いが多く見受けられます。
作風の違いも、キャラクターが異なることをイメージさせてしまう2人ですが、決定的に仲違いしていた証拠や文献などは残されていないようです。
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歌人として生きた紫式部の作品
紫式部の正式な本名はわかっていませんが、角田文衛が提唱する「藤原香子」(かおりこ / たかこ / こうし)とする説があるようです。しかし、この説は仮定部分が多すぎることから、推論に過ぎないといった意見もあります。
夫と死別した頃から「源氏物語」の執筆をはじめた紫式部は1006年頃、一条天皇・中宮彰子に仕えることとなりました。1014年没説、1031年没説など、紫式部の没年には諸説あり、現在も有力な説はないようです。歌人として紫式部が世に遺した作品としては、主に「源氏物語」「紫式部日記」が知られており、紫式部の自選による歌集「紫式部集」もあります。興味のある方は、ぜひ手にとってみてください。
百人一首にも紫式部の名が
紫式部は当初、「藤式部」と名乗っていました。紫式部と呼ばれるようになった由縁は、代表作である「源氏物語」の主人公・紫の上にちなんでのものだと言われています。また、仕えていた中宮が土御門弟に戻り、その後、皇子が誕生するまでの克明な様子が描かれている「紫式部日記」も源氏物語と肩を並べるほど有名な作品で、当時を知るための貴重な資料として保管されています。
歌人らしく、百人一首に和歌が選ばれていることでも有名な紫式部。特に、下の句を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」
この和歌は、紫式部が古くからの友人にあてて詠んだものです。久々の再会だったにも関わらず、まともに話すこともなく時間だけが過ぎていってしまった無念を表しています。
歌舞伎や能の他、映画、ドラマなどの題材に取り上げられることが多い「源氏物語」の作者として、名前だけはよく知られている紫式部。改めて、歌人としての彼女に思いを馳せてみるのも、いいかもしれませんね。
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