柳美里は「家族シネマ」で芥川賞を受賞!どんな作風の小説家?
柳美里(ゆうみり)は日本の小説家・劇作家です。神奈川県横浜市出身。1994年に小説家デビューしました。そんな柳美里は在日韓国人であり、特徴的な名前はペンネームではなく本名です。
柳美里の人生は、学生時代から壮絶なものでした。1983年に横浜共立学園高等学校へ入学しますが、いじめに遭って1年で退学してしまいます。その後は東由多加が率いるミュージカル劇団東京キッドブラザースに入団。数年間役者として活動した後、1988年に「水の中の友へ」で劇作家・演出家としてデビュー。さらに数年後、1994年に「石に泳ぐ魚」で小説家デビューを果たし、以降は主に小説家として活動しています。
柳美里のデビュー作となった「石に泳ぐ魚」は、顔に腫瘍を持つ実在する韓国人女性をモデルに書かれた小説です。モデルになったのは実在する韓国人女性で、この女性からプライバシーを侵害されたとして訴訟を起こされ、2002年には最高裁で出版差し止め判決が出されました。
このようにデビュー作から話題を生んだ柳美里ですが、1997年に「家族シネマ」で第116回芥川賞を受賞。このことは韓国でも話題になりました。同作は別々に暮らし、関係が崩壊してしまった家族が、映画の中で家族を演じるというもので、その中で生まれるすれ違いや摩擦によって家族とは何かということを問いかける物語となっています。
同作で描かれる家族は柳美里自身の家族関係に近いものがあり、また「家族シネマ」に同時掲載されている「潮合い」は、自身のいじめ経験を元に書かれた小説です。このように柳美里は、自身の人生経験を題材に多くの小説を執筆しています。
話題を生んだ代表作「命」は自身の不倫経験を元に執筆
1994年に小説家デビューをして以来、常に話題作を生み出し続けていた柳美里ですが、2000年に発表した「命」は特に大きな話題となりました。同作は柳美里の自伝小説であり、内容は既婚男性と恋愛関係になり子供を妊娠し、それによる葛藤や一人で生きていくことへの迷いなどを綴ったものとなっています。
その赤裸々な表現が話題となり、自伝小説は「命」から「生」「魂」「声」と続き、これらは柳美里の代表作として知られています。その中でも一番最初に出版された「命」が有名なため、柳美里の作品といえば「命」という認識を持っている人も多いようです。
既婚男性との不倫という難しいテーマを取り扱った内容だけに、「命」を読んだ読者の感想は中には「全く共感できない」「自業自得だ」というものもあるようですが、「必死に生きるひたむきさに感動した」「命とは何か考えさせられた」という意見も多数あります。
それほどさまざまな人の心を揺さぶるのは、その壮絶な経験と柳美里の高い文章力によるものと言えるでしょう。大きな話題を呼んだ「命」は第7回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞しており、業界でも評価されています。また2002年には江角マキコ主演で映画化もされました。
柳美里と東由多加は10年間同棲していた?
不倫経験を赤裸々に綴られた「命」には柳美里の不倫体験だけではなく、東由多加との関係のことも多く記されました。東由多加は高校を中退した柳美里が所属したミュージカル劇団「東京キッドブラザーズ」を主催していた人物です。
柳美里は入団当初の16歳の頃から、当時39歳であった東由多加と同棲していたといい、その関係は10年ほど続いたそうです。東由多加は柳美里にとって非常に重要な存在で、「あなたは演じるより書きなさい」と、柳美里が劇作家・小説家として活動するきっかけを与えた人物です。
同棲をやめた後も、柳美里と東由多加の交流は続いていました。不倫をしていた男性と別れた後、まず東由多加の元を訪ねた柳美里は東由多加の様子がおかしいことに気づき、病院に連れて行ったところ、食道がんであることが判明。これをきっかけに、二人は再び同棲生活を始めることになりました。
その後子供が生まれ、ともに子育てを行うも、3ヶ月後に東由多加は55歳という若さで他界してしまいます。高校を中退した時やシングルマザーになった時など、人生の節目節目で柳美里の手助けをしてくれた恩人である東由多加のことを、柳美里は「私のたった1人の師で、柳美里という作家を生み出した人」と語っています。
柳美里は福島で本屋さんに?
2000年に代表作「命」を発表後も、精力的に活動を続けてきた柳美里。プライベートでは2011年3月11日に発生した東日本大震災を契機に、福島県や宮城県、岩手県に頻繁に足を運ぶようになりました。2015年には福島県相馬市に移住、執筆活動の拠点を福島に移した柳美里は2018年、南相馬市内に書店「フルハウス」を開店しました。
本屋を開店するに至った理由としては、復興に貢献したいという柳美里の思いがあるようです。柳美里は、その思いをインタビューで以下のように語っています。
「震災では、流されたり傷んだりして本を失った人も多い。その本棚をもう一度埋めて行くための場所にもなれたら」
このように執筆活動のみならず、様々な分野で活動を続ける柳美里。きっとこれからも素晴らしい作品や活動で私たちを驚かせてくれることでしょう。今後の活動に期待が高まりますね。