清水玲子「22XX」はSF少女漫画の最高傑作!「秘密」「月の子」とのつながりは?
清水玲子「22XX」はSF少女漫画の最高傑作!カニバリズムを描き「食べる」ことを真摯に捉えたストーリー
清水玲子「22XX」は、マンガ研究家の藤本由香里に「少女マンガ史上最高傑作」と言わしめた作品です。まずは、清水玲子の「22XX」をご紹介しましょう。
人間型ロボットであるジャックは、より人間に近づけるために、「食欲」をプログラムされていました。お腹が空けば食べる、食べれば空腹感がなくなるというのは、生物にとっては自然なサイクルですが、ロボットですから、ジャックは、食品を消化できるわけではありません。
まだジャック自身が自分を人間だと思っていた頃、閉じ込められ飢える中、皆で食料を分け合って耐えるも、本当の人間である仲間たちは次第にやせ細っていきます。しかし対照的に、ジャックの外見は変わりません。結局、ジャックの仲間だけが餓死してしまいました。もし自分がロボットだと知っていれば、もし自分に「食欲」がなければ、彼らは死なずに済んだという罪悪感から、ジャックは「食べる」ことを躊躇するようになります。
そんな中、誘拐された王女を助けるために、食人の文化を持つフォトゥリス人のテリトリーに足を踏み入れたジャック。そこでフォトゥリス人の女性であるルビィと出会い、フォトゥリス人が持つ「食べる」ことへの畏敬の念を知ります。
清水玲子「22XX」のテーマは、「食べる」こと。人が「食べる」ことに対する姿勢と対照的に、鮮烈に描き出されるのが「食人」、つまりカニバリズムです。今でこそさまざまな作品で描かれるカニバリズムですが、この作品が発表された1990年代当時の少女マンガとしては、とても挑戦的な内容でした。
しかし清水玲子にとってのカニバリズムは、タブー視する対象というよりも、動物の生の営みとして自然なことであったようです。「22XX」という作品は、私たちが当たり前に感じている行為の本質をまっすぐに見つめて読者に提示する質の高い少女漫画であると同時に、清水玲子という漫画家の誠実さを感じられる傑作ともいえるでしょう。
清水玲子「22XX」と「秘密」「月の子」とのつながりは?作者をも成長させ「輝夜姫」を描く礎となった作品だった
清水玲子の「22XX」は、同じく清水玲子の描く「月の子」と同時期に掲載されました。長編漫画である「月の子」は、月に住む種族の子が地球にやってきて、伴侶を得て子を残そうとするというのが大枠のストーリーですが、作中にはチェルノブイリ原発事故が登場します。このように、「月の子」でも、「22XX」と同じく生物の本質である「生きる」ことや「命を繋ぐ」ことを真正面から描いた清水玲子。「月の子」を、「私のSFファンタジーの集大成」と表現しています。
「22XX」も「月の子」も、今では文庫版で読むことができます。文庫版「22XX」のあとがきには、「「22XX」を描かなかったら「輝夜姫」は描いていなかった。「輝夜姫」を描いていなかったら、「秘密」シリーズは描いていなかった」とあります。
つまり「月の子」と同時期に発表された「22XX」は、清水玲子にとって、その後の作品にも連なるとても重要な作品なのです。物語として直接的なつながりはありませんが、「22XX」と「月の子」両作品を描いた経験が、「輝夜姫」を描く礎をつくり、それが今また「秘密」のような素晴らしい漫画を描く力を清水玲子に与えたということなのでしょう。
清水玲子「輝夜姫」は全27巻の超大作!あらすじネタバレ、ラストの感想は?
清水玲子「輝夜姫」全27巻におよぶ超大作のあらすじをネタバレ!舞台は近未来の世界
清水玲子の超大作「輝夜姫」とは、どのような物語なのでしょうか。タイトルだけ見ても、日本の古典「竹取物語」を連想させますよね。実際、「輝夜姫」は、「竹取物語」をベースとして描かれた近未来SF作品。「かぐや姫」という天人の子孫と、かぐや姫に捧げられる生贄と、それを取り巻く人間たちの物語です。
端麗な容姿と、優れた運動能力で、他の注目を集める晶という少女。彼女は赤ん坊の頃、竹やぶで仮死状態になっていたところを助けられました。晶は、養母の絵のモデルになるだけでなく、実子以上に彼女を愛する養母と肉体関係も持っていました。まゆは、晶と母親との関係を嫌悪すると同時に、晶への異常な執着を見せます。彼女たちの束縛から逃れ、自分自身の出生の秘密を知るため、晶は、米軍主催のU.G.キャンプ参加者として、「幼なじみ」の由と碧と共に、自分が育った「神淵島」へ向かうのでした。
神淵島では、晶たちがもともと「かぐや姫」の生贄として島で育てられていたことや、若者たちは皆、世界の要人の子供と同じ遺伝子を持つ「クローン」であることが明かされました。要人の子のクローンである彼らは「本体」のドナー、つまり、その肉体は「本体」の身体のスペアだったのです。次々と捉えられて行くドナーたち。一部は臓器を摘出された後「処分」され、一部は生存が絶望的な本体から臓器を移植されます。そんな中、晶は、「本体」である玉鈴とそのボディガードの高力士に捕らえられ、中国へとさらわれてしまいます。
神淵島の「カビ」に侵されて死亡した玉鈴の替わりに、「玉鈴」となった晶は、ドナーたちの死に心を痛め、要人や本体たちを憎みます。その憎悪は、「処分」されたはずの仲間たちにも芽生え、移植された臓器の細胞が本体を乗っ取り始めることに。そこへ提示された新たなキーワードが「月の石」。物語が進むにつれて、アポロ計画で月から極秘に持ち帰られたという「月の石」と「かぐや姫」の関係が次第に明かにされます。
姿を変えながらも本体の中で「意識」を取り戻したドナーたちの人類への復讐が始まりました。「月の石」を集めて月に返し、月(かぐや姫)を地球(帝)から解放する……かつて神淵島で暮らした天人たちの思惑通りに、晶のもとに続々とドナーたちが集まり、その地位と財力を使って、石を集め始めます。そう、まるでかぐや姫と結婚を申し込んだ公達のように。
晶のもとに3つの石が集まったとき、米軍は、晶たちに取引を持ちかけました。それは、「月が地球に接近してきておりこのままでは地球に衝突する、だから「月の石」を月に返して、月と地球の衝突を回避しよう」というオルフェウス計画への協力要請でした。この計画の指揮を執る柏木の卑劣さに涙し憎みながらも、晶たちは交渉を重ね、お互いを利用するのです。
清水玲子「輝夜姫」衝撃のラスト!読者の感想は?
清水玲子「輝夜姫」のスケールは、日本の神淵島から始まり、世界に及び、らに月と地球にまで拡大しました。その中には、クローンや臓器移植、脳死、政略結婚、遺伝子操作などの時事的なワードが数多く登場します。そうした物語の終盤、柏木の私欲により「失敗」に導かれたオルフェウス計画は、結局どうなったのでしょうか。
自分の一部であるといっても過言ではない碧を人質にとられ殺害された由は、それでも碧との約束を守り、柏木の殺害をこらえました。けれども、晶は憎悪に駆られ「鬼」となり、柏木を刺してしまいます。これによって、晶は罪を犯したと見なされてしまいました。中国チームによって月に返された月の石は、羽衣として由だけを地球から解放します。墜ちた晶は、地球に取り残され、人間とともに生きることになりますが、地球が月を失い60年を経た頃、地球で愛する人と共に生きた晶は人生を全うし、罪を償ったと見なされ、最終的には晶を愛した伴侶をただ一人残し、月へと昇ってゆくのでした。
「輝夜姫」のラストについては、「輝夜姫」ファンの間でも賛否両論見られます。「結局、かぐや姫伝説とドナーやクローンの関係が説明不足だ」という感想もありますし、「誰もいなくなってしまい、寂しい」という感想もあります。一方で、由が月に帰ったあと、晶と結婚した人物が抱く晶への愛情の深さが「本当にかっこよかった」という肯定的な感想も。
作者である清水玲子は、「みんなが幸せになるハッピーエンド」をどこか嘘くさいと考えているような発言をこれまで何回かしています。「輝夜姫」のラストに対する読後感の悪さは、そうした意味で、作者の意図通りなのかもしれません。「月の子」や「22XX」から描き続けてきた命と、その営みに対する誠実な姿勢は、悲しさや寂しさも隠さずに抱え込んでいくのです。
清水玲子「秘密」初の公式ガイドで萩尾望都の対談も!「秘密 season0」最新刊で知る未知の世界
清水玲子の「秘密—トップ・シークレット—」は、2012年に完結し、同年に新シリーズとして「秘密 season0」の連載が開始しています。そして2016年8月の映画公開にあわせ、「秘密」初の公式ガイドブックと、「秘密 season0」の最新刊である第4巻が発売されました。
「秘密」公式ガイド「秘密 パーフェクトプロファイル」には、登場人物たちの情報があらためて整理・紹介され、作品で描かれた事件の詳しい解説や、単行本未収録の作品が収録されています。事件報告書や年表などは、「秘密 —トップ・シークレット—」と「秘密 season0」第4巻までが収まっていて、作品の全体や伏線を確認したいファンには嬉しい内容でしょう。また、清水玲子が多大な影響を受けたという萩尾望都との対談も見どころの1つとなっています。
萩尾望都による巻末コメントは、「月の子」にも収録されたことがあり、そこでは萩尾望都による「月の子」の解説の他に、清水玲子の描線に対する称賛が含まれていました。清水玲子を認めている萩尾望都と、萩尾望都を尊敬する清水玲子との対談とは、なんとも豪華な取り合わせですね!
同時発売となる「秘密」シリーズ最新刊「秘密 season0」第4巻では、視覚異常を持つ人が見る世界を手がかりとした事件捜査が描かれます。薪の同期である桜木がメインの物語で、桜木には、世界がどう見えていたかが事件のキーポイントとなります。通常私たちが見るのは、紫から赤の可視光線の範囲で彩られた世界。しかし世の中には、実にさまざまな色覚「異常」、視覚「異常」を持つ人がおり、今自分が見ている世界とは異なる世界を見て生きてきた人がいるのだということを改めて知る作品となっています。
一筋縄では解釈できない清水玲子の作品は、じっくり読みたいものばかりです。「秘密」新シリーズ最新刊である「秘密 season0」第4巻をはじめ、長編の「月の子」や、「輝夜姫」、衝撃的な内容を真正面から描いた「22XX」もぜひお手にとってみてください!